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夢を見た。
夢と言っても、実際に眠りながら見たものではない。大嫌いな夏のにおいをかぎながら、ふと数ある記憶の中からサルベージされた嫌に現実的な夢だ。過去の記憶はなにも私に与えはしないが、けれど確かに脳裏にあって、私の心を締め付ける。ここに来た頃は、目を閉じればいつでも浮かび上がったその光景。最近では思い出すことはもう稀だ。思った以上に、私は時間に癒されてしまっているのかもしれない。忘れるという罪深き手段をつかって。

『ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

『……  を助ける方法?』

『絶対に、絶対に  を助けるから、だからそれまで、待っててね……!』

『私を、つれていって』

嗚呼、なんと甘美で、悲しい友情だろうか。我ながらできすぎた悲劇だと思う。そう、私は約束したのだ。あの子と、そしてあの男と。

「……ま、どーでもいいけどね」

口元に浮かぶのは、あの頃とは違う醜く歪んだ笑み。過去の決意や約束など、まるでなかったかのような。

『いいか』

『俺は……の……ではなく、……の……だ』

『忘れるな』

ああ、そう私に言ったのは一体誰だったか。
忘れるなと、約束をしたときに忠告された言葉は一体何だったか。

(……ま、別にいっか)

忘れたところで何があるのかと、それすらも忘れてしまった私は楽観的に笑った。私の願いが叶う日は近い。小細工もすんだし、あとは時間の問題だろう。もう少ししたら彼も諦めはじめるだろうし……、

――そう、私は時間に癒されすぎていたのだ。

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