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倒れたという事実がまるで嘘のように、目覚めたあとの私はいたって健康体であった。翌日になっても腹がいたくなるとか特別そんなことは起きず、ただいつも通りの空腹感に身が縮こまるだけだった。

「あ、おはよーめぐみ」
「おはよー」

教室に行くと、すぐに友達に声をかけられた。数学の宿題終わった?とか、ニュース見た?とか。そんな何気ない、至っていつも通りな会話だった。

「あれ、仁王とブン太は?」
「まだ見てないよ」
「そっか、じゃあきっと遅刻だね」

本日は朝練がお休み。あの二人に限って自主的に朝練をしているということはありえないし、けれどこの時間に教室にいないということはかなり高い確率で遅刻だ。

「まったく、あとで真田に言いつけてやろ」
「あははっ、仁王くんたち大目玉だね!」
「……なぁ、成瀬ー」
「んー? な……、っ!?」

背後からかかった声、肩を叩いた男子の手。

ガタガタッ

「めぐみ!?」
「えっ!? お、おい、成瀬!?」

突然膝を折った私は付近の机を軽く巻き込んで床に倒れ、瞬間的に走った鋭い痛みにぐぅと呻き声をあげた。それからようやく、バッ、と肩を叩いてきた黒田くんの方を見る。

「ちょっと、あんたなにしてんの!!」
「なっ、なんもしてねーよ、俺!」
「じゃあなんでめぐみが転んだの!? ほら、謝ってよ!」
「う……、わ、悪い、成瀬。そんな強く叩いたつもりはなかったんだけど」

黒田くんが困ったように頭をかき、私に手を差し出す。それにはっとなって、強張った表情になんとか笑みを浮かべてその差し出された手を取ろうとする。

「っ」

また、痛み。今度は静電気のようなピリッとした痛みだ。黒田くんが首を傾げる。私は己の手を見つめ、無意識に少し前の記憶をずるりと思い起こす。

『ってぇぇぇえ!? 先輩っ、なにするんっすか!?』

――赤也。

「……ど、どーした? そんなに痛かったか?」
「黒田のせいじゃん!!」
「だから俺はなにもしてないって!」

再び黒田くんたちが言い合いをはじめ、朝の教室はこの流れをくんでちょっとした騒ぎになりかける。しかしその中心で、私はその状況を周囲とはまるで別の角度から考えはじめていた。

『静電気みたいな……』
『おっまえ、今ぜってーなんかしただろ!?』
『先輩、なにするんっすか!?』
『……気をつけんしゃい』

昨日の気絶。赤也に触れたときの痺れ、仁王の忠告、そして今おこったこと。赤也の、「拒絶反応」。

「だ、大丈夫か……?」
「めぐみ?」

……ありえない。だってそんな、

「まさか、」

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