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薬の匂いがする。
暗闇から浮かび上がってまず思ったのはそれで、それから自然と開かれた瞼のおくにまっさらな天井が映った時、ようやく私は自分が眠りから目覚めたということを自覚した。しばらくぼうっとして、視線を彷徨わせる。完全に船をこいでいる状態ではあるが、すぐ脇に赤也がいるのが確認できた。

(……わたし、なんでここに?)

遠くの方から聞こえる声の騒がしさは明らかに病院のそれとは違うし、恐らくここは保健室であろう。それはわかる。だが、なぜここに?
まっすぐに天井を見つめながらそれを思い出そうとし、その瞬間、びくりと全身が痙攣でも起こすように震えた。びりびりと、身体に痺れるような感覚が蘇る。私は思わず顔をしかめ、は、と荒く息を吐き出した。そうだ、そう、思い出した。たしか私は、赤也に会いに行く途中に誰かとぶつかったのだ。その時に「雷に打たれたような」痛みがあって、それから、それから……。

(倒れた、のか)

首を動かし、赤也の方を見る。彼は阿呆面で椅子に座ったまま寝ていて、もしかしてずっとここにいてくれたのだろうかと、そんなことを思ってふと嬉しくなった。彼を起こさぬよう、身体をゆっくりと起こし、そっとそのふわふわとした髪の毛に触れる。が、瞬間。

「っ!」

ぴり、と静電気のようなものが身体に走った。それと同時に赤也もびくりと震え、ば、とその顔が上がる。そうして私を見るなり、

「先輩っ!!?」

と大声で叫んだ。

「めっ、目が覚めたんすか……!?」
「う、うん……」

途端、赤也が心底ほっとしたように息を溢す。嬉しそうに顔が緩み、良かったっす、と小さな声が聞こえる。どうやら、心配をかけてしまったらしい。

(……ま、いいか)

あまりに赤也が嬉しそうに笑うので、その時ふと浮かんだ小さな疑問は、ひとまず心の奥に仕舞いこむことにした。だって、まさか思わないじゃないか。「なぜ自分は倒れたのか」なんていうそんな当たり前すぎる疑問が、自分に不幸を呼ぶことになるだなんて。

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