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夕日の輝きに照らされ、橙色に身を染めた校舎。本来人通りの多い玄関際は放課後遅い時間の為か人はおらず、ただ2つの影だけが向かい合って立っていた。と、影が重なる。まだ蝉の鳴くには早いこの季節、風の音だけが2人の耳に届いていた。甘く濃密な時間が2人の間に流れる。その時間は、一瞬とも一時間とももっと長い時間とも言えた。
「…………」
「…………」
影が離れる。2人はしばし顔を赤くして見つめあった後、男の方が女の手を徐に取った。それから黙って2人で歩き出す。これからようやく帰路につくようであった。
「……赤也」
「ん?」
「私幸せ」
「……お、おう」
めぐみが笑うと、赤也は照れたようにはにかんでそっぽを向いた。
彼らは、1年前から付き合っている校内でも有名なラブラブカップルだった。2年にしてあの男子テニス部のマネージャーを一人でこなしていためぐみは、入学してきたばかりの赤也と知り合い、告白されて以来、ずっと彼と付き合いを続けている。一学年差の恋愛だけれど、めぐみが3年、赤也が2年になった今でもその仲はずっと変わらない。最初は周囲の目や嫉妬が酷かったが、今ではもうそんなものはぱったりと無くなっていた。
赤也は自分より背の低いめぐみを見下ろし、ほんの僅かに口角を上げた。
「あ、そういえば明日ウチの学年に転校生入るみたいっすよ」
「えー、この時期に? 珍しいね」
今は夏に入る少し前、つまり春の終わり頃の季節だ。4月始めに入ってくるのならともかく、こんな中途半端な時期に入ってくるなんて。そもそも転校生自体そう多くはない。
めぐみは繋がれた手に視線を落としながら、赤也の話を黙って聞いていた。転校生については赤也も詳しく知らされていないが、どうやら女であるらしい。転校生の入るクラスはひとつ隣のC組だそうだ。へぇ、女の子ねぇ。めぐみが顔を上げる。
「その子のこと、好きにならないでよね?」
「……はぁ? 何言ってんすか。俺はめぐみ先輩一筋っすよ」
勝気に笑った赤也の表情に、めぐみもまた嬉しそうに微笑んだ。
再び重なった2つの影に、太陽が呆れたように溜息をついた気がした。
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