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「あの女は、どういうことなの」

普段聞くことのない、低い声音だった。酷く恐ろしさのこもった声で彼女はそんなことをぽつりと零し、屋上のフェンスにかけた手を固く握り締める。そこに風が強くふいてフェンスががたがたと揺れ、まるで怯えているようにも見えた。

「……ッ、そんなの知ってる! 私が聞きたいのは、なんであの女が野放しにされてるのかってことよ!!」

彼女が大声で叫んだ。空気がピリピリと振動している。あの女とか野放しとか、どうにも平穏で平凡な会話をしている様子ではとうていなさそうだ。

「……手を打って。今すぐにでも」

ガシャン、とフェンスが激しく音をたてる。彼女の静かな声が風に攫われていき、小さくとけてなくなる。彼女が手にした携帯は強い力で握り締められているようで、キシ、というその悲鳴が聞こえてくるのではと思うほどだった。

「はぁ? そんなの関係ない。私が赤也とうまくやれるならそれで良いの」

どう、と風が強く吹き荒れる。そのあまりに傲慢な考えを諌めるように。しかし女王的に地上を見下ろす彼女にしてみれば、そんな諌みは自分とは遠く関係ないもののようで。

「……ええ、任せたわ」

口元を醜く歪めてそう笑って、彼女はさっそうと踵を返した。そのまま屋上を出て行き……それから俺は、身体を起こす。恐らく彼女は、俺の存在に気付くことができなかったのだろう。あえて部活に向かわず……ひとり屋上へと待ち伏せするように向かって行った俺の存在に。そうでなければ、これほど饒舌に余計なことをべらべらと喋るわけがない。

「『あの女』……ね」

めぐみ、ときっと部活で汗を流しているのであろう彼女の名前を呼んで、くしゃりと頭をかいた。どうか何も起こらないでくれ、とそう願いながら。

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