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◇
「……あ、赤也だ」
「おー、ほんとじゃ」
部活動の時間になり、私と仁王、それからブン太の3人で部活に向かっている途中のことだ。2年の廊下でなにやら見覚えのあるワカメヘアーが目に入り、私はふと足を止めた。隣には女の子が立っていて、たぶん高橋さんだろうと察しがついた。
「楽しそうだね」
「おん」
「なんだ、お前らどうかしたのかよぃ?」
ブン太が急に足を止めた私たちを不思議そうに見て、それから赤也の存在に気がついて少し笑った。それからふいに赤也の方に駆け寄っていって、その頭を後ろからばし、と叩いた。高橋さんが笑っている。ブン太は赤也に何事かを言ったあと、私たちのほうを指差した。赤也がこちらを見る。
「あ、手ぇ振ってるぜよ」
「うん」
嬉しそうな、楽しそうな笑顔でこちらに手を振ってくる赤也に私も振り返し、嬉しそうに微笑んで仁王のほうを見た。しかし仁王は高橋さんのほうをじっと見つめていて、特に何か返答がくることはなかった。
仕方なしにもう一度赤也の方を見ると、彼はブン太と互いの顔をひっつかみあってぎゃーぎゃーと何か喚いていた。大方予想はつく。ブン太のおやつを食べたとか食べないとか、もしくはブタとかワカメとかそんな言い合いだろう。
「赤也は元気だなぁ」
「うるさいだけぜよ」
「楽しくて良いじゃん。元気ないよりはさ」
「距離をおく」宣言をしてから、部活中は私から直接ドリンクやタオルを受け取ったり指示をうけたりすることもなくなっていたが、最近ではそんなこと忘れてしまったかのようにまた会話をするようになってきている。このまま、元に戻れば良い。いや、もう戻っているのかもしれない。拒絶反応はともかくとしても。
「嬉しいなぁ」
「なにがじゃ?」
「ううん。なんでもない」
隠し切れない笑みを浮かべて幸せそうに呟いて、それからふと、高橋さんの方を見た。すると一瞬だけ、彼女と目が合う。鋭く睨みつけるような視線と。
(……え?)
けれどすぐに視線は外され、彼女はいつもの笑顔を浮かべてブン太たちのやりとりを笑いながら見始めた。……今のは、気のせいなのだろうか。
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