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気をつけろ、と言われても何に気をつけたら良いのかわからなかった私は、嫌がる仁王を無理矢理つれて、ひとまず赤也に会いに行くことにした。いつもは行くとほぼ間違いなく赤也の隣に高橋さんの姿が見えたが、今日はいない。昼休みになってすぐに駆けつけてきたから、まだ来ていないだけなのかもしれない。
「赤也」
「え? ……あ、めぐみ先輩!」
私の方を向いてすぐ、嬉しそうに赤也が笑った。辺りはざわざわとうるさく、昼食をどこで取るかだの今日の弁当は好物が入っているんだなどといった会話があちらこちらから聞こえてきていた。私も手に持った弁当をちらりと見て、赤也に今日は一緒に食べない?と誘ってみた。正直いって、駄目もとである。しかし意外にも赤也の返答は優しく、
「いいっすよ! 俺が断るわけないじゃないっすか!」
と元気よく返ってきた。私は思わず仁王を見る。仁王も私を見ていて、良かったのぉ、と微笑みながらそう言ってくれた。
「先輩、今日の弁当なんすか?」
「ん? 私のお手製たまご焼きと、きんぴらごぼうと……って、あ! 早速食べないでよ!」
「めっちゃ美味いっす!!」
「もぉ……」
クスクス、と思わず彼の笑顔につられるように微笑んで、私も自分のお弁当にはしをのばす。うん、美味しい。
(……いちおう、「距離をおいている」状態なんだよね? 私たちって)
卵焼きを食べながら赤也をちらりと見るが、彼は幸せそうな表情でおにぎりを食べていて、こちらの視線に気付きはしない。あまりに自然に話せているから忘れてしまいそうになるが、私たちはいわゆる倦怠期のようなものの筈なのだ。そう、その筈。
(……ま、いっか……)
とりあえず卵焼きが美味しくできたので、今はそれは良いことにしよう。
けっきょく高橋さんがその場に現れることはなく、特に何事もないままにその日の昼休みはお開きになった。
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