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昼休み、赤也に「用事がある」と言って教室を抜け出した。彼といるのは本当に楽しい。彼のことを考えながら階段をのぼっていけば、屋上なんてあっという間で。夏の近付く景色を横目に、私は携帯を取り出した。

「……もしもし」

電話の向こうから聞こえてくるのは無機質な声。前聞いた時と変わらない。

「こっちは問題ない」

そう、本当に順調だった。順調すぎるほどに。私は思わず笑みを浮かべる。もう少し、もう少しなのだ。あとはもう一歩、決め手が得られれば。

「その代わり、私が成功したら……」

ずき、と頭が悲鳴を上げた。電話の向こうからは笑うような声が聞こえてくる。私はわずかに、唇を噛む。赤也といる間は忘れていられた、嫌な記憶が蘇る。

『――!!』

今は暑くなどないはずなのに、じりじりとした夏の太陽光線がリアルに思い出される。冷や汗が、こめかみを伝っていった。唇が震える。

『あ……、ぁ、あああああ……!!』

誰かの泣くような声。悲鳴と、大声と、そのどちらともつかぬ車のエンジン音。今見えているはずの「現実」があの時の光景とダブり、視界にちらほらと赤色がうつった。なんだか急に息苦しくなって、携帯の向こうからの声に、僅かの間反応できなくなった。大丈夫、と返す声は、もしかしたら、震えていたかもわからない。

『私が、私が、私が私が私が私が私が私が』

頭の中で誰かが叫ぶ。誰かの声が延々とリピートされていく。頭が痛い。割れるようだ。私は薄く笑った。

『絶対に、彼を手に入れてみせる』

そうだ。私は彼を、手に入れる。

「もうすぐ」

ぽつ、と呟いて怪しく笑んで、電話を切った。

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