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それから、1週間後のことだ。

「のぉ、お前さん聞いたか?」
「え?」

唐突に、仁王にそう切り出された。なんのことかわからずに顔を上げると、彼はにこにことこちらを見ていた。それから「あれ、」と言って窓の外をさす。つられて窓の外を見下ろすと、男子生徒と仲良く喋っている赤也の姿があった。そこに女子生徒が近付き、赤也と言葉をかわす。彼は終始楽しそうで、女子生徒が近付いても、ひるんだり、怖気づいたりする様子は見られなかった。私はしばし、その光景を見入るように見つめる。仁王が後ろで微笑んだ。

「完全復活、みたいじゃよ」

ばっ、と勢いよく振り向く。仁王の言葉が、にわかに信じられなくて。彼は私の見開かれた目をのぞきこむようにして微笑み、良かったな、と言って頭を撫でた。彼が何を言わんとしているのかは察しがついた。もし本当に赤也が女の子を怖がらなくなっているのなら、……もしかしたら。

「赤也……!」

もう一度窓の外を見た。彼が女子生徒を交え、数人で何か話している。途中、彼が女子生徒に触れ、大きな悲鳴を上げていた。どうやら、拒絶反応があることを忘れて油断していたらしい。……ばか。
"教えてくれてありがとう"、そんな気持ちを込めて、仁王に精一杯の笑顔を向けた。仁王もまた嬉しそうに微笑んで、私の頭を撫でた。どうしようもない嬉しさにふにゃりと緩んだ唇が、あかや、と弾むように彼の名前を呼ぶ。けれど、私の幸せというものはどうやらなかなか巡ってこないようで。

「あ……、」

赤也に近付いていく人影があった。別のクラスの彼女がどうしてここに、と思っていたら、ご丁寧に仁王が「合同で体育だったみたいじゃの」と教えてくれた。その時彼がどんな表情をしていたかはわからないが、何気ないその口調は低く淡々としていた。

「めぐみ」

仁王が私を呼ぶ。でもきっと情けない顔をしているから、今は振り向けない。なに、と震える声で返すと、彼の手が私の手に触れる。窓際に置かれたその手を優しく包んでくれるその温かさは、今の私にとって、泣きたくなるほど嬉しいものだった。
窓の下を遠ざかっていく赤也の姿を、私はぼんやりと、ただただ見送った。

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