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「うっぎゃぁぁ!?」
はっ、と糸に引かれるように顔を上げた。
突然どこかから聞こえてきた悲鳴。赤也の声だ。拒絶反応が出たばかりの頃はよく聞いていたが、最近ではめっきり聞かなくなっていた悲鳴。私は慌てて走り出した。
「あかや……っ」
彼のことだから、どうせうっかり女の子に手を伸ばしてしまったのだろう。その様子がありありと脳内に浮かび上がって、思わず、小さく笑みが漏れた。もう、本当におっちょこちょいなんだから。
「……赤也?」
聞こえたほうに顔をのぞかせると、案の定そこには赤也がいた。なにやら女の子に向かってまくしたてるようにして何か言っている。たぶん、痛いとか何するんだとかそんな感じの内容だろう。女の子は困ったような表情だ。
彼の方に行こうとして一歩を踏み出す。しかし、すぐさまその足が止まった。視線は赤也から少し後ろ、とある女子生徒の方へ向けられる。
「高橋さんだ」
自分でもほとんど無意識に、そんな呟きが漏れた。彼女は赤也に笑いかけていて、それに返す赤也も笑っていた。うまくいかなかったね、とか、そんなことを言っているようだ。でも、そんなことを言う彼女の表情は、なんとなく嬉しそうで。
「…………」
私は彼らに背を向けた。一歩、何事もなかったかのように踏み出す。それから弾かれたように、その場から走り去った。
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