||18





それから私は、仁王と連れ立って赤也の教室をたびたび訪れるようにした。彼らの特訓の様子を見たかった、というのもあるし、せめて私だけでも赤也から目を離さないでいたい、という気持ちも勿論あったからだ。
赤也と高橋さんは相変わらず仲が良く、しかしそれだけで見れば、彼らの関係は「単なる友達」程度のようだった。少なくとも赤也は間違いない。高橋さんの方は、どうなのかわからないが。
私と仁王の見る限り、彼らの特訓の成果は少なからず出始めているようだった。以前に比べ、女の子に対する恐怖が少しずつ薄れていっている。それは部活の練習の様子を見ていても明らかだった。
このまま、私たちの関係の解消につながってくれれば良いのだが。

「……あれ、めぐみ先輩?」
「あ……、」

いつものように教室に訪れた直後、赤也がこちらを見た。今まで、一度たりともこちらに気づきはしなかったのに。自然と自分の顔が引き攣った気がした。私がここにいることで、赤也を困らせてしまっただろうか。私たちはまだ、「距離を置いている」関係のままだ。

「どうしたんっすか?」
「あ……、ううん。なんでも、ないよ」
「?? なら良いですけど……。あっ、俺、高橋に用があるんでこれで!」
「う、うん」

赤也は笑顔だった。私のことを「怖い」と思っている様子はなく、恐怖症は治った、と見ても良さそうなくらいだった。これもきっと、高橋さんのおかげだ。そう、高橋さんの。

「……めぐみ、どうした?」
「にお、帰ろ」
「……おん」

その時、自分がどんな表情をしていたかはわからない。でも仁王が私を見て、少し悲しげに眉尻を下げたからには、あまり良い顔はしていなかったんだろうと思う。それにその時は、ひょっとすれば涙が零れ落ちる程に、気分が落ち込んでいたから。

たとえ赤也や私たちの関係が元に戻っても、私自身はもう、戻れないのかもしれない。振り返った教室に赤也の笑顔を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えた。

[19/55]
[prev/next]

[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]
[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -