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「……落ち着いたら、また元に戻りますから!」
「あっ、赤也!?」

とうとうめぐみ先輩に、言ってしまった。「距離をおこう」だなんて、本当を言えばそんなことはしたくないのに。でも自分の身に起こっていることに混乱しているのは事実で、そしてそれを先輩たちに言うわけにもいかなかった。……走って逃げるなんて情けない。でも今振り返れば、先輩と目があってしまうかもしれない。きっと悲しそうな顔をしているであろう先輩の表情を、見てしまうかもしれない。

「……あっ、赤也!」

不意に聞こえてきた声に顔をあげると、高橋が笑顔で立っていた。俺もそれに笑顔を向ける。高橋は、めぐみ先輩をのぞいてしまえば唯一俺が気を許している女子だった。だって、こいつならもし触ってしまっても痛い思いをしなくてすむのだ。女子に触った時に起こる「アレ」がなんなのかはわからないが、でも少なくとも高橋だけは大丈夫、というのは実証済みだ。先輩たちに相談できないので、俺は高橋に相談しながらこれをなんとか治そうと奮闘している。
そんなことを考えていたら急に不安になってきて、俺はにこにことしている高橋に、ふと弱音を漏らした。

「俺……、もう、治んねーのかな」

その声に、高橋は俺が何の事を言っているのか察したのか、眉尻を下げた。でもすぐに、励ますような笑顔になる。

「大丈夫だよ! 絶対治るって!」
「……おう!」

つられるように笑えば、高橋も嬉しそうに笑った。そうだ、弱気になってどうする。早くこれを治して、また前みたいに、めぐみ先輩と手を繋いで帰りたい。それまでめぐみ先輩が俺のことを好きでいてくれるかはわからないけど……、だからこそ、早く治さなくては。

(待っててください、めぐみ先輩)

そんな風に決意をして、一瞬、そちらの方を振り返ったが、慌てて首を元に戻した。先輩がまだそこにいるかはわからないけれど、でも、悲しい顔は見たくない。……そんな顔にさせてしまったのは俺の方だが。

「なー、坂田。今日さぁ……、……」
「え?」

高橋の後ろの方で聞こえた男子生徒の声に、高橋が反応して振り返る。それに俺は首を傾げたが、高橋ははっとなって慌てて前を向いた。なんでもない!、という表情には明らかな焦りが見えていたが、俺にはそれがなんなのかわからなかった。

「……?」

まぁ、本人がなんでもないと言うなら別に良いか、と自分を納得させて、そのまま手を振って身を翻した。

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