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部活の時間がはじまった。いつものようにマネージャー業をこなしつつも、赤也の様子を注視する。「反応」が出始めてから感じていたギャラリーに対する警戒や恐怖は、僅かだが薄れてきているような気がした。これもひとえに高橋さんのおかげか、と思うと少し悲しくなった。醜い嫉妬だ、とは思うけれど、彼と一緒にいるのは私だけが良かったのに。

「せんぱーい!ドリンクください!」

赤也が駆け寄ってくる。部活でこうやって話すのは久しぶりだ。いつもは、ドリンクやタオルをもらう時すら怯えるようにして走り去っていってしまう。今日の昼の件から、彼なりに「優しさ」を見せようとしているのだろうか。登下校は未だに一緒にしていないが、でも少しずつ「元の形」に戻りつつあることに安心していた。

けれど、起こるのは良いことばかりではない。

「先輩、ちょっといいすか?」

部活が終わった後、赤也が声をかけてきた。なんだろう、と思いつつもそちらに歩み寄る。もしかして「一緒に帰ろう」とでも言ってくれるのかと期待したが、返って来た返事はそんな優しいものではなかった。

「あの、誓って先輩のことが嫌いになったわけでは断じてないんですけど」
「……? うん」
「俺たち……ちょっと、距離おきませんか」
「……え」
「すんませんっ、俺、最近色々あって混乱してるっていうか……落ち着いたら、また元に戻りますから!」
「あっ、赤也!?」

赤也は困ったような、不安そうな顔をしてそう言って、それから頭を下げて走り去っていった。私は呆然とそれを見送る。
『最近色々あって』と言うのは、恐らく「反応」のことだろう。赤也とその話はしていないから、彼は未だに私たちにそのことがバレていないと思っているらしい。心配をかけまいと相談せずにいるのだろうが、きっといつかは誰かを頼るのだろう。そしてそれは私ではなく、

「……高橋、さん」

遠くに彼女の姿が見えた。赤也の姿を見て笑顔で声をかけている。そしてそれに返す赤也も、笑顔で、

「あかや、」

もう聞こえるはずなどないのに小さく呟いて、そうしたら雫が一粒頬を滑っていった。慌てて目尻をぬぐって走り出す私を、一瞬、赤也が振り返った気がした。

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