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「あ、赤也だ」

その後で教室に戻る途中、仁王と一緒に廊下を歩いていると、遠くの方に赤也の姿が見えた。もう昼休みの終わり頃なのに、まだこんなところにいたのか。ここは3年生の教室がある、3階である。
赤也はこちらの方へ向かって歩いていて、その姿を見ながら、そういえば最近赤也と話していないな、ということをふと思い出した。久しぶりに話しかけてみようか。でも、またびくついた反応で返されるのは目に見えている。そういう反応にいちいち傷付いてしまうのは、きっとそれだけ私が赤也を好きだったからだ。

「赤也」
「あ……、めぐみ先輩! 仁王先輩も」

赤也はこちらを見て驚いたような顔をして、それから走って近くまできてくれた。しかし彼は、少しだけ離れた、微妙な距離で立ち止まってしまう。やっぱり、まだ女の子が怖いんだ。けれど、赤也は仁王の方を見てむっとしたような顔をして、なんで一緒にいるんすか!と嫉妬してくれた。そんな小さなことが嬉しくて、思わず顔をほころばせる。

「? なに笑ってんすか?」
「ううん、なんでもないよ……、ね、仁王」
「そーじゃな」
「あーーっ、ちょっと、仁王先輩! めぐみ先輩に手ぇ出さないでくださいよ!?」
「そう思うんじゃったら、もうちょっとめぐみに優しくしてやることじゃな」
「えっ、俺優しくなかったっすか!?」

しゅん、と眉尻を下げ、赤也がこちらを見る。本気で不安がっているようだ。うわ、なんだそれ、すごい嬉しい。

「赤也はいつでも優しいよ。ね、仁王?」
「だからなんで仁王先輩に聞くんすかぁー!!」

赤也は憤慨したように言って、それから授業の時間が近いことに気がついたのか、やべっ、と言って急に顔を顰めた。

「俺、そろそろ行くっす!」
「あ、うん。ばいばい赤也」
「はいっ、じゃあ先輩、また!」

最後に輝かんばかりの笑顔を向けて、赤也は走り去っていった。
良かったな、と仁王が誰にともなく呟く。無論、それは私に向けられた言葉だろう。何が良かったかなんて、聞かなくてもわかる。素直に「嬉しい」、と思った。

けれど私は知っている。
赤也があの笑顔を向ける女の子は、私だけではないことを。
今までだったらそれは別に気にしていなかったけれど、今は違う。
高橋恵理佳、と無意識に呟いた声に仁王がちらりと反応を示したが、それ以上は何も言わずに、私たちも教室に戻って行った。

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