||晴天の下
◇
きゃぁ、と遠くでギャラリーが沸き上がった。
いつもの轟音が聞こえない。校庭の隅に来て、真っ先に思ったことだ。
からっからに乾いた地面は、昨日までの雨をまるで嘘のように思わせる。真夏の太陽の威力はさすがに半端じゃなくて、私はその暑さに顔を顰めた。
今日はギャラリーの声やら、あのテニス部レギュラーの放つボールの轟音も聞こえなかった。いや、ギャラリーの方は今日もわんさかいて、ざわざわとしていたが、でもいつもの半分以下のボリュームだった。だってきゃーきゃー言ってないもの。聞こえてくるのは平凡的なテニス部のボールの音と、野球部とかの練習の声。酷く静かだった。
(・・・ん、)
しかしそれも最初だけで、私が準備を終えて絵を描き始める頃には、また昨日までのうるささに戻っていた。どうやらレギュラーがミーティングをしていたらしい。せっかく静かだと思ったのに、全く嫌になるね。
(今日はここまでにしよう)
2時間ほど経ってから、私は一度美術室に帰ることにした。さすがにこればかりは描いていられないし、なにより暑い。そろそろ引退作品に取り掛かり始めないと間に合わなくなりそうだった。
「・・・なんじゃ、帰るんか?」
片づけをしている途中、仁王がやって来た。まさか今日も来るとは驚いた。私は軽く頭を下げた。
「絵はどうじゃ」
「進んでますよ」
「ほぉか。・・・約束、楽しみにしてるぜよ」
「・・・守るかどうかわかりませんよ?」
「そん時はそん時じゃき。じゃぁの」
彼は伏せられた画板を一瞥してから、ひらひらと手を振って去って行った。相変わらずつかめない人だ。パレッドをごしごしと擦りながら、私はそんな事を考えてふと小さく笑った。
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