||灰色の空





ぽつ、と頬に雫が落ちた。

その日は朝から灰色の空が続いていた。今にも降り出しそうな雨が気になったが、作業をしないわけにもいかなかったので、私は道具を持って外に出た。いつものように校庭の隅で筆を走らせる。絵はようやく輪郭が浮かび上がり、完成に近付いてきた感じがしていた。

「・・・ん?」

何かが頬に触れた。見上げれば、ぽつぽつと雨が降り落ちてくる。私は慌てて立ち上がった。

(絵が・・・)

真っ先に絵を画板ごと伏せて、パレットをたたんで小脇に挟んだ。バケツの水はすぐ側の水道場に流し、絵を庇いながら校舎まで走った。他に外で練習をしていた部生達も、慌てたように片づけを始めている。
雨はどんどんと勢いを増した。校舎につく頃にはもう土砂降りで、全身びしょぬれになっていた。ポケットからタオルを取り出したが、既にタオルも使い物にならないくらい水を吸ってしまっていた。まぁ、絞ればなんとかなるだろう。

(・・・あれ?)

絞ったタオルで身体を拭きながら、私は廊下の奥に誰かの影を見つけた。私が入ったのは校舎の端にある扉で、基本的にこの時間は誰も付近を通らない。人がいるのはかなり珍しい。しかも男女二人だ。うわ、リア充かよ。
気になってそちらを見ていると、女の方が何かをまくし立てていることがわかった。声はさすがに聞こえてこない。でも少し廊下に反響していた。

「・・・っ、!!」

女の方が何かを叫んだ。そのまま聞こえたのは、パァン、という小気味の良い音で。私はその瞬間ある事に気がついて、2つの意味で目を見開いた。女は泣きながらどこかへ走り去っていく。男はそれに溜息をついていた。

(仁王、さん)

心の中で呆然と男の名前を呼んだ。

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