||衝突





疲れた。疲れた疲れた疲れた。

「はぁ……」

遠くの方で聞こえるざわざわとした喧騒に耳をふさいで、私はずるずると壁伝いに腰を落とした。今日一日、うるささに耐えながら教室内で過ごしてみたが、思った以上に疲れる。こんなのが毎日続いたら、すぐに気が滅入ってしまいそうだ。やっぱり静かに過ごせるスポットを新しく探さないと。
放課後の学校は至って静かではあるが、それでも玄関の方からはたくさんの声が聞こえてくる。高い声低い声怒った声嬉しそうな声、あぁもう、うるさいうるさいうるさい。耳障りだ。
もう少し時間が経てば、このうるささは半減する。なぜならば、男子テニス部レギュラーの皆さまが、帰宅を始めるからだ。

「早く帰れよ」

愚痴っぽい呟き。苛立ちを込めた声は、誰もいない廊下に少しだけ響いた。レギュラーの人達に罪があるわけではないが、それでもこのうるささには耐え難いものがあった。今日一日のストレスも上乗せで、苛々は最高潮だ。私は落ち着かなげに立ち上がり、廊下を早足で歩いていった。ガラリ、と適当な教室の扉を開ける。誰もいない。どうやら理科室のようだが、教卓には授業で使ったと思われる実験道具が広がっていた。先生がきちんと片付けていかなかったようだ。しかも、鍵すらかけずに。

「……この教室はダメか」

せっかくだから静かな場所を探そうと思ってはみたものの、上手くいかない。授業が行われているような教室では、昼休みをゆったりと過ごすことはできなさそうだ。溜息と共に教室の扉を閉め、次の教室、また次の教室と扉を開けていった。結果、自分が今いた場所近くでは、程よいスポットは見つけることはできなかった。

「やっぱりダメかぁ」

とぼとぼと廊下を歩くさまはなんだか寂しい。そろそろテニス部の人たちも帰っただろう。自分もいい加減帰ろうかと、私は玄関に向かって歩いて行った。

「……たっ」
「大丈夫ですか!?」

角を曲がる瞬間、目の前に飛び込んできた影。見事に衝突して尻餅をつくと、相手が柔らかな声で心配そうに声をかけてきた。大丈夫です、と立ち上がろうとしたのもつかの間、私は手を差し伸べてきた人物に目を丸くした。

「や、ぎゅうさん?」
「……関さん?」

互いにしばし固まる。しかし私は急にはっとしたようになって、慌てて立ち上がった。柳生さんは驚いたような顔でそれを見つめた。

「すみません、急いでいたもので」
「いえ、こちらも、余所見をしてて」

妙な沈黙。かけるべき言葉が見つからない。困ったように視線を泳がせ、逃げるように俯いた。柳生さんは私の様子に何を思ったのか、微笑み、それではまた、と一礼をして去って行った。その後姿に目を走らせ、完全に見えなくなってから、息をつく。まさかこんなところで会うだなんて。というかまた、謝り損ねてしまった。

「……早く帰ろ」

重苦しい溜息と共に、私は疲れたようにそう零した。

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