||疲労
◇
「はぁ……」
重たく漏れたのは、疲れを滲ませる溜息。いつもであれば例の廊下を歩いているはずの時間、私は教室で机に突っ伏していた。
私は移動教室のとき、そして昼休みのときにあの廊下を使う。移動教室はあの廊下を使わずともいける位置にあるし、昼休みもあの廊下に特に用事があるわけではない。しかしそれでもあの場所を使うのは、私の性格に原因があった。
「……っるさ」
うちのクラスには、この学校ではアイドル的存在である「テニス部」の面子がひとりもいない。いや、正確に言えば「レギュラー陣が」ひとりもいない。だから休み時間になると、彼らの教室を尋ねたり教室できゃいきゃい彼らを騒ぎ立てる練習が非常に多いのだ。昼休みはレギュラー陣も教室にいることは少ないから、教室で騒ぐ連中が増える。うるさいのが大の苦手な私にとって、これは悩みの種でしかなかった。
「うぅ……でもあそこに行くとなぁ……」
悪戯に巻き込まれるのはもう嫌だった。柳生さんにお礼を言わなくてはいけないし個人的にも会いたくはあるが、あの廊下にいって巻き込まれるくらいならと尻込みしてしまう。お礼に関してはどこかで会った時で良い……とは思いつつも、実際に会った時に彼と話せるかというと微妙なところだった。彼はいつだって人気者なのだ。
「静かな場所、探すかなぁ……」
思いつく限りの場所を思い浮かべてみたが、あまり良さそうな場所は思い付かなかった。どこもかしこも大抵はカップルたちの巣窟で、そうでなければ立ち入り禁止かうるさいかの二択だ。私のような奴にとって快適な場所は、この学校にはないのだ。
「……っるさいな」
騒ぐクラスの面子を睨みつける。このクラスで仲の良い人なんていないし。他のクラスになら何人か話の合う人はいるけど、そこにはレギュラーの人がいるしなぁ。
「とりあえず、今日はここにいよう……」
相変わらずのうるささにきつく目を閉じて、無理矢理騒音を追い出すように自分の世界へと意識を落とした。
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