||君の笑顔の為に僕がした事


好きな子を作るのは、辛い事だよ。自分は全くその気がなくても、ふらっと好きになってしまうのだから。例えばそれが彼氏持ちの子とかだったら大変だ。そして僕はまさにそれをやってしまった。

「舞さん」
「幸村君」

名前を呼べば、名前を呼び返して笑ってくれる。話しかければ勿論返してくれるし、話を弾ませる事だってできる。僕と君は、そのぐらいの関係だった。当時はそれに満足していたわけだけど、君に彼氏ができたと聞いてそんなものじゃ足らなくなってしまった。
だって、君が彼氏に見せている笑顔を見てしまったから。好きって顔に書いてあるような、幸せそうな笑顔。僕に見せている笑顔は、楽しそうだけどそれとは違う。それが嫌だった。

「今日はね、君の好きそうな花をもってきたんだ」

にこりと微笑んで、その花を差し出す。それを見て彼女の顔が一気にほころび、ありがとう幸村君!と飛び切りの笑顔で言ってくれた。でもまだ違う。君の笑顔はそれじゃない。

「・・・ねぇ、俺の事好き?」

微笑みながら、聞いてみる。するとそれに驚いたような顔をして、それから彼女はぷぅっと頬を膨らませた。それが可笑しくて、その空気の入った頬を指で潰す。すると彼女はもっと膨れてしまった。
理由は知ってる。俺が君に彼氏がいる事を知っているからだろう?でもこの質問は何度もした。なのに君はそれには答えずに似たような反応を見せ続けるだけだ。逃げているのか、それとも答え辛いのか。どちらにせよ、俺にとっては辛い。
でも彼女を傷つけるわけにはいかないから、いつもそこでやめる。別の話題にうつして、この会話は無かった事にしてしまう。だから今日もそうするだろうと、きっと彼女もそう思っているだろう。・・・でも、今日はそういうわけにもいかない。

「俺は君の事、好きだけどな」

真面目な顔をして、じっと見つめながら言ってみる。思いを伝えたのは初めてだった。きっと笑って流されると思っていたから。でも意外とそういうわけではなくて、一瞬頬を赤く染めた後、顔を強張らせた。

「あの、幸村く・・・」
「俺は本気だよ」

退路はふさぐ。彼女の笑顔が見たかっただけなのに、これじゃきっと逆効果だ。もう笑ってくれないかも・・・いや、それどころか話すら聞いてもくれないかもしれない。でもそれでも良いと思った。このままでは何も変わらないとわかっていたから。

「きょ、今日は良い天気だね?」
「逃げようとしてもダメ。・・・ねぇ、俺の事、好き?」

もう一度、はっきりと尋ねる。すると君は視線をしばらく泳がせた後、唇をきゅ、と結んだ。それから真面目な顔をして、こちらを見つめてきた。

「・・・そりゃ、幸村君は友達だもん、大好きだよ。・・・でも、それは恋愛とは違うの」

まっすぐにこちらを見つめながら、そう言う。その表情は真剣で。俺はその顔を無言で見つめ、しばらくそのまま静止していた。

「・・・あ、わ、私そろそろ帰・・・・・・」

気まずくなったのか、帰ろうと立ち上がった舞さんを見て、俺は無意識に彼女を引き寄せた。えっ、と彼女が声を上げる間もなく、唇を奪う。
舞さんの目が大きく見開かれるのがわかった。

「・・・舞・・・・・・、」

彼女が俺を突き放そうとしたところで、遠くの方から声が聞こえた。はっとなって、そちらを見れば、舞さんの彼氏である丸井がこちらを呆然と見つめて立っていた。しかしすぐにキッとこちらを睨みつけるような顔になり、走り去っていった。

「ブンちゃ・・・、」

そちらの方を見つめて固まったまま、彼女が丸井の名前を呼ぶ。それだけで胸が痛んだ。しばらく丸井のいた方を見つめていた俺達だったが、急に舞さんの方がはっとなり、こちらをきっと睨んだ。それから泣きそうな顔で、

「最低ッ!!」

と叫んで、パン、と俺の頬を強く平手打ちした。彼女はそのまま丸井のいたほうへと走り去っていく。俺は何もできない、何もいえない。ただ叩かれたところを抑えて、立ちすくむだけ。
はは、何やってんだろ、俺。


顔の為にがし


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幸村を書くとなぜかこうなる不思議。

2012/2/3 repiero (No,2)

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