||なんでいつも届かない
少し肌寒さが気になってくる秋の季節、落ち葉を踏みしめながら2人並んで歩く。隣に立つのは、可愛らしい顔つきをした背の高い俺の彼女。笑顔でこちらを見つめているけれど、それを俺がむすっとした表情で見返すのはもはやお約束のようなものだ。
「リョーマは可愛いなぁ」
「・・・可愛くない。舞の方が可愛い」
「いやん、照れちゃう」
俺はわりと真剣に言っているのに、舞はいつものように冗談めかしてそれに返してくる。不満げに唇を尖らせる俺に対し、舞は変わらず笑顔だった。
「・・・舞」
「なぁに?」
怒ったような声音で呼ぶ。しかし、舞も慣れているのか、特にそれを気にしている様子はなかった。本当に、もう少し気にしてくれても良いと思うんだけど。突然別れとか切り出されたら、舞はどんな反応をするつもりなんだろうか。それとも、こうやって悩んでいるのは俺だけなんだろうか。
「なんでもない」
「リョーマは可愛いなぁ」
上から見下ろしながら笑顔で言われると、本当に溜息しか出てこない。
(・・・あ、)
彼女を睨みつけていると、舞が俺の帽子をひょいと取る。そのまま帽子は俺の手の届かない高いところへ。慌てて手を伸ばすが・・・。
(・・・届かない)
「いーじゃん、ちょっと貸してよー」
俺が伸ばした手なんて気にする事無く、舞が楽しそうに笑う。それが悔しい。俺は背が低いせいでいつも君に届かないというのに。
(・・・あぁ、もう・・・・・・)
なんでいつも届かない一度で良いから、舞の柔らかな髪の毛を優しく撫でてやりたい。
君のその身長が、俺のコンプレックス。
――――――――――――
元々は長編用に書いた話でした。
セットお題より抜き出しています。
お題提供:
徒の日様
2012/3/2 repiero (No,27)
[8/8]