||お願い事は


私の名前を呼んで、駆け寄ってくる年下の君。それを見つめて、優しく微笑みかける。どうしたのって聞いてみたけど、別に用はないらしい。ただ私の姿が見えたからって・・・可愛いな、もう。

「リョーマ、今日一緒に帰れる?」
「勿論」

にっ、とリョーマが笑う。私もそれに笑顔を返して、リョーマと一緒に部室の方へと歩いていった。今から部活の時間、ちなみに私はテニス部とは全然関係ないので部室まで行ったら即帰ります。邪魔になるといけないしね。
それじゃ後で、と手を振って、私は自分の部活の為に音楽室へと向かう。リョーマとは恋人関係なわけでも委員会が一緒なわけでも家が近いわけでもないが、なぜか仲が良い。昔落し物を拾ってあげた時から彼とのこの奇妙な関係は始まった。
リョーマは私の事をなんと思っているのだろう。ただの先輩、知り合い、それとも・・・。
ありえない考えに行き着き、私はふるふると首を振った。そんなの願うだけ無駄で、今この関係が築けているだけ奇跡なんだから欲を言っちゃだめだ。そんな、私の我がままで彼を困らせるなんて・・・。

「・・・あ、先輩」
「ん、あれ?どうしたのリョーマ?」
「今日、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど・・・良い?」
「え?あ、う、うん」
「じゃ、帰りに。それじゃ」
「あ・・・・・・」

声をかける間もなく、リョーマは小走りで部室の方へと戻っていく。お願いって、なんだろう。・・・まさか、ね。
奇妙な気持ちを胸に、部活へと足を急がせるのだった。





「先輩!」
「あ、リョーマお疲れ」
「先輩もね。・・・それで、お願いのことなんだけど」
「・・・あ、うん。なに?」

首をかしげて尋ねてみれば、リョーマが軽く俯いた。その普段と少し違う様子に、また首を傾げる。そうしてしばらくしてから、リョーマが口を開いた。

「先輩って、彼氏いんの?」
「・・・え?」
「彼氏いるなら・・・俺と帰るの、まずいんじゃないの」
「・・・あ、ううん、彼氏はいないよ。だから一緒に帰っても大丈夫」
「ふーん・・・だったら先輩」
「ん? なぁに?」

いつになくかしこまった様子のリョーマを見つめ、言葉を待つ。すると、リョーマが顔を上げ、私の目をまっすぐに見つめて言った。

「俺と付き合ってください」

瞬間、目を見開く。少し心の中で期待していた言葉、でもありえないと思っていた言葉。そんな言葉が実際にリョーマの口から放たれてしまって、私は混乱してしまう。そうやってなんとか口から出した言葉は、自分の気持ちとは間逆のもので。

「・・・りょ、リョーマにはきっと素敵な人がいるよ?」

苦しい。リョーマの事好きなのに、なんで断るようなこと言ってるんだろ。リョーマに思いを伝えるチャンスなのに。素直に動いてくれない自分の口が憎い。

「先輩以外に誰がいんの? 俺はアンタが好きなんだけど」
「・・・で、でも、」
「でもじゃなくて。先輩は俺のこと嫌い? ・・・それならそれで諦める」
「あ・・・・・・、」

リョーマの真剣な瞳が私を貫く。少し、不安そうに揺れている瞳。でも、ちゃんとリョーマは逃げずに私の目を見ている。そんなリョーマを信じずに、自分の気持ちに嘘をついて、楽なほうへ逃げようとする私とは、まるで真逆に。
どくん、と心臓が高鳴った。と、同時に、リョーマに思い切り抱きつく。突然の行為に少しよろめいた彼をきつく抱きしめて、それからちゃんとリョーマの顔が見えるように体を離し、口を開いた。

「リョーマ、あのね、私・・・。私も、リョーマの事が好きなの!」

リョーマにちゃんと伝わるように、まっすぐに目を見つめながらそう言ってやる。ずっと彼に伝えたかった、私の思い。私じゃつりあわないって、諦めてたこの思いを。

「・・・良かっ、た・・・・・・」

ほ、とリョーマが嬉しそうに息を吐く。それから私を見つめ、小さく微笑んだ。


い事は


(届かないと思っていた。そう笑う彼の姿が、愛おしくて。)
――――――――――――
書いている途中で一度データが消えてしまい、半泣きでした。
前のデータと微妙に展開が違いますが、とりあえず完成したのでよしとします。

2011/2/6 repiero (No,8)

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