||冬の温もり


真冬に待たされる事ほど辛いものはない。

もし嫌いな季節は何かと聞かれたら、私は真っ先に春と秋を切り捨てる。
春は暖かくて心地よいし、秋は涼しくて食べ物も美味しい。だから春と秋は私にとって嫌いな季節にはならない。
では、夏と冬のどちらが嫌いか、という答えを出すとなると、私は散々迷った挙句、冬と答えるだろう。なんでかっていうと、まぁ、いろいろだ。

「・・・寒っ」

吹き付ける風がうなりを上げて、私はぶるりと身を震わせた。只今、彼氏との待ち合わせ場所で一人寂しく凍えてます。ず、と鼻水をすすれば、静かな辺りに無駄に大きく響き渡った。

あぁ、これだから冬は嫌なんだ。これが夏であれば日陰さえ見つけられれば暑さを凌げるけれど、冬はそうもいかない。寒さに弱い私にとっては特に、この冬の風の受け続ける事は地獄でしかなかった。

数十分前の自分を呪いたい。なぜ私はこんなにも早く家を出てしまったのか。時間に忠実な私の彼氏にしても、さすがにこの寒い中5分前行動以上の事はしたがらないだろうに。今の時間は待ち合わせの10分前、つまり最低でもあと5分は待たないと彼氏は来ないという事だ。

「寒い・・・・・・」

かれこれ20分はここにいる。一度家に戻ろうにも、それには少し時間が経ち過ぎた。今から戻れば待ち合わせ時間に間に合わなくなってしまう。
このまま大人しく待つしかないのか、と思えば思うほど、自分が憎らしく感じられた。微妙に露出が多い服を選んでしまったのも腹立たしい。私が寒さに弱い事は、痛いほど身に染みて知っていた事実なのに。

「・・・あと3分・・・・・・」

長い。長すぎる。そんなに待ってたらカップラーメンできるぞコノヤロー。
・・・っていうか、それで考えたら、私は一体待ち時間の間にいくつのカップラーメンが作れたのだろう。どうせなら作れば良かった。あぁ、この寒い中で作ったら熱湯もすぐに冷めてしまうか。

「・・・早く来い〜っ」

必死の願いも込めてうなってみるが、そんな事で彼の到着が早まるはずもなくて。はぁ、と溜息を漏らせば、それはすぐに白くなって空気中に消えた。
あぁ、くそ、あいつが到着したら絶対一発殴ってやろう。そんな事を考える私の脳内には、私の大好きな彼の笑顔ばかりが浮かんでいた。

「・・・3分たった」

携帯を閉じ、ポケットにしまう。顔を上げてあたりを見渡せば、彼と思しき人が歩いてくるのが見えた。集合時間の5分前ジャストだ。さすが聖書。
彼は私の姿を見るなり驚いたように慌てたように走ってきて、は、は、と白い息を吐きながら私の目の前で止まった。至極暖かそうな格好をしている。

「遅い」

げし、と足で蹴れば、理不尽な言動に彼が眉をよせて苦笑した。
そらすまんかったわ、という彼の口調には優しさが感じられる。

「ほな、行こか」
「うん」

小さく頷く私の声は、ほんの少し弾んでいた。さりげなくつながれた手が酷く暖かくて、自分の冷たい手でぎゅ、と強く握った。彼の温もりが伝わってくる。

「舞、冷たいわ」
「我慢しろ」

苦笑気味の彼の笑顔が私の寒さを紛らわせてくれる、なんて思ったら途端に冬風の寒さが身に染みた。クサイ台詞を聞かせるなって事ですねわかります。
ちらりと彼の方を見れば、彼もまたこちらを見ていた。にこりと嬉しそうに微笑む。その笑みの理由はわからないけど、いつも彼は私と目が合うとこうやって嬉しそうな顔をするんだ。あぁ好きなんだね、と頭の隅で人事のように思った。

「どこ行く?」
「あったかいとこ」
「じゃ、抱きしめたるわ」
「きもい」

いつもの会話を繰り返す私たちに、凍てつくような風がキツく吹き付けた。
寒っ、と彼が震えるが、私には不思議とあまり寒く感じられなかった。


もり


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無表情系の女の子。
白石の出番少なかったですね。

2012/2/18 repiero (No,15)

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