||嗚呼、どうか この願いを


それからちょうど1週間が経った日の事、俺は再び図書室に来ていた。本の返却の為だ。この間借りた物はすでに返したが、俺はあれから神に関する書物を読み漁っていた。理由はなんとも単純なもので、そうする事で彼女に近づけるような気がしたからだ。同時に彼女と神に対する興味への解消にもなるだろうと。
手に持った本のタイトルは「神を信じてはいけない」。無神論を唱える本だったが、内容はただのアンチで内容はわりと薄っぺらかった。

(今日は・・・、と)

慣れた足取りで、図書室の隅へ向かう。図書室に宗教関連のスペースは無いに等しく、神に関する本は分厚いものが何冊か置いてある程度だった。その内の半分はこの1週間でもう読み終えてしまっただろう。
つ、と指で本の羅列をなぞり、物々しい字で「神」と書かれた茶色い本を抜き取った。まるでアンティークのような立派な本。相当に分厚い。これは一日ぐらいじゃ読めないかもしれないなと、小さく溜息を吐き出した。

「それ、読むんですか?」

気がつけば背後に立っていた少女に、そう声をかけられた。彼女だ。
俺は開きかけていたページを一旦閉じ、彼女の方へと向き直った。やはり彼女の笑顔は美しい。改めてそう思った。

「えぇ。少し興味があるので」
「まぁ、興味を持っていただけましたか!」

1週間前、俺が神に対して興味がないと答えていたのを彼女は覚えていたらしい。嬉しそうな表情に、少し胸の奥が痛くなった気がした。

「その本は私の大好きな本なんです。きっと面白いですよ」
「そうなんですか。楽しみですね」

他人行儀な返答だとは思ったが、それ以外に思うところもなかったのでそう返した。それを聞くと彼女はより嬉しそうに笑って、それから背を翻して1週間前のように図書室を去ろうとした。しかし俺は、それを引き止める。

「あの」
「・・・はい?なんでしょうか」
「少し、お話しませんか」

それを言うことは特に難しい事でもなかったのに、なぜだか酷く緊張して胸が締め付けられた。ドキドキと心臓が早鐘を打つ。俺は彼女からの色よい返答を期待していた。しかし彼女は悲しそうに眉を寄せ、

「・・・嬉しいお誘いなのですが、ごめんなさい。恋人と、約束があるのです」
「・・・・・・そう、ですか。無理を言ってすみません」

あぁ、と頭の奥で誰かがうめいた。そんな俺には気付く事無く、彼女は一礼して今度は小走りに図書室を去っていく。急いでいるようだった。

一人残された俺は、「神」という文字を見つめて唇を噛んだ。

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