||死ぬまで優しいうそをつく
◇
手の傷は大分収まってきた。なんだろう、私よく手を怪我するね。
少し前に怪我をした時は職場だったから良かったが、今回は光の目の前で惨事が起こったから、彼を酷く慌てさせてしまった。それを見て、少し嬉しいと思った自分がいたわけなんだけれど。あぁ、私、愛される事が幸せすぎて死んじゃいそう。
そんなある日、君は突然私にこう言った。
「なぁ夕菜」
「んー?」
「そろそろ結婚せぇへんか」
「・・・へ?」
あまりにも真剣な顔をして君が言うものだから、それが決して冗談ではないとわかって目を大きく見開いた。ええと、こんな時はどういう風に対応すれば良かったんだっけ?前にもプロポーズされたことはあった、でもそれは明らかに話の流れで飛び出た「冗談」だったわけで、私は本気にしていなかった。でも、今回は本当の本当に、茶番なんかではないわけで。
「え、っと・・・、本気?」
「そうでなかったらこないな事言わんわ」
確かにそうだ。私は頭を抱えた。なんて返事をすれば良いんだろう、こういう時。あぁ、こんな事なら「冗談」で言ってくれていた内に、ちゃんと返事する練習をしておけばよかった。
何も言えない私に、光は続ける。
「夕菜の事、死ぬまで愛したるわ」
「・・・一生好きでいられないかもしれないのに?」
「そん時は、嘘でも愛してるって言ったる」
「それ一番傷付くんだけど」
「大丈夫や、俺がおまんを嫌いになるなんてありえへんから」
眉を顰めた私に、光はほんの少しだけ微笑んでいた。
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