||きみがいるのでまだあるきます





それから1週間後、蔵から衝撃の告白が。

「俺、別れたわ」

せっかく蔵に近付かないようにしておいてあげたのに、結局別れてしまったらしい。蔵に理由を聞くと、あんだけラブラブだったくせに冷めたんだそうだ。
彼女さん大泣きだっただろうなー。たぶん、別れた原因は向こうにあるんだろうけどー。今までの経験からいくと、私にこの前の要求をした事がばれたのかな?そりゃ蔵は怒るよね。

「ま、新しい恋でも探すわ」
「別に、無理に恋しなくてもいーんじゃなーい?」
「そうかもしれへんな。でもせぇへんと落ち着かんねん」

落ち着かないって、なにそれ。顔を顰めてそう尋ねると、蔵は少しだけ寂しそうに笑った。幼馴染の私でも、時々わからない事があるのだから困る。
まぁともかく、彼女さんと別れてからは蔵が私に笑顔を向けてくれる機会が増えたから、よしとしよう。本当に些細な変化なのだけれど、私としてはちょっと嬉しかったりする。

「桃子」
『先輩』
『桃子ー!!』

蔵、財前君、謙也。私は毎日、3人の笑顔に囲まれる。蔵が笑って、財前君も笑って、謙也も笑って。気がつけば、私の周りには笑顔がたくさんある。それは良い。・・・ただ、自分はどうなんだろう?
私って、心から笑ったこと、あったっけ?

「・・・桃子?どないしたん?」
「・・・んーん、なんでもなーい」

誤魔化すように作り笑いを浮かべて、まぁ良いかと小さく呟いた。きっと「笑う」という行為は、小さい頃から、努力なしに何事もそつなくこなしてきた私が、唯一できないことなのだろう。それに例え笑わなくても、こんなにも私は笑顔に囲まれているんだから、それで良いじゃないか。自分が笑わなくてもそれが得られるのなら、私は笑う必要が無い。「努力」が嫌いなのは、今も昔も変わらない事だ。わざわざ笑う為の努力なんて馬鹿馬鹿しい。
そんな風に結論付けたのだけれど、もし自分が笑わないことで、いつか誰かを傷つけたり、みんなが笑いかけてくれなくなったりしたのなら。そう思うと、自然と顔が顰められた。相変わらず口元には作り笑いをへらへらと浮かべたままだったから、恐らく蔵から見たら相当可笑しな顔だっただろう。

「なんや、その微妙な顔。もっとちゃんと笑えや」
「ぐえっ、やめろー」

ぐいぐいと頬を引っ張られ、軽く抵抗しながら適当に言ってやった。普通の人ならこういう時笑うんだろうけれど、私にはうまく笑顔が浮かばない。

(・・・もし、蔵が笑いかけてくれなくなったら)

笑わなくても、周りが笑うからそれで良い。本当にそれで、正解なんだろうか。
蔵に摘まれた頬に指を触れさせながら、そんな事を考えた。しかし、すぐにまぁ良いかと結論を出す事を諦めてしまう。君が笑って、私が笑って。そんな構図は理想的で羨ましいほどだけれど、でもそうやって憧れることは全部が全部無駄なことだ。どうせ、私には叶えられない願いなのだから。

「・・・・・・・・・」
「・・・桃子?どうした、泣きそうな顔して」

なんかあったんか?、と蔵に問いかけられ、その時はじめて自分が泣きそうであることに気付かされた。なんでだろう、って考えてすぐ、あぁそうか、と答えに気付かされた。私は悲しいんだ。蔵たちはこんなにも自分に笑いかけてくれるのに、自分はそれに何も返せていないという事実が。

「ねぇ、蔵ー。どうやったら、笑えるかな」
「・・・は?そんなん、こう、楽しいことがあったら自然と笑うやろ」
「・・・たのしい、こと」
「おん」

楽しいこと。楽しいことか。蔵と一緒に遊んだこと、財前君とアホな掛け合いをして遊んだこと、謙也がすべって転んでみんなが爆笑していたこと。
私の思い出せる限りの「楽しいこと」を考えていたら、無意識に、ふにゃ、と口元が緩んだ。すると蔵は一瞬驚いたような顔をした後、優しく微笑んだ。それを見て自分もまた笑っていることに気がつき、驚いたように目を丸くした。

「私、今、笑ってた?」
「おん。笑っとったで」
「・・・ほんとに?」
「ほんまや」

・・・あぁ、そっか。


END


(君は笑いました。私もそれに笑います。)
(幸せだ、と呟くと君は微笑んで、その時私は初めて、心の底から笑いました。)

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