||きみをりゆうに生きつづけます
"究極の面倒くさがり屋"
ずい分昔に、そんな風に揶揄された事があった。
「桃子、おはよう」
「おーはー」
気だるそうな声で挨拶を返す、するとそれに幼馴染からの爽やかな笑み。毎日代わり映えする事のないお決まりの風景は、なんだかとても幸福であるように感じられた。
「眠そうやな」
「蔵は元気そーだね」
はははは、と乾いたような適当なような笑みを浮かべれば、蔵も微笑んだ。
「せめて背筋ぐらい伸ばしたらどうなん?」
「だめ、無理。そんな気力なーい」
背筋伸ばしたら疲れるし。そんな事をぶつぶつと言っていたら、だるんだるんの、膝カックンしたらそのまま倒れ伏しそうな身体をぽんと叩かれてしまった。
「やめい、倒れる」
「そのくらいで倒れてたら重力になんて逆らってられんわ」
あぁ、言えてるかもね。
「・・・ほら、早く教室行かんと」
「えー、先行ってて良いよー。私は朝練ないから、早く行かなくて良いし」
「そういう訳にはいかへん。おまん途中でこけるやろ」
「こけないっつの」
しばらく言い合っていたが、結局蔵は朝練の為に早く行く事になった。まったく、階段を上るだけで私がこけるとでも・・・おっと危ない。
「あー、つまんねーなー」
やっとの事で誰もいない教室についてから、ふとそんな事を漏らした。のろのろと歩いて、よっこらしょとばかりに席に座る。窓際一番後ろ、最高の特等席だ。
「今日も寝てますかねー」
蔵には怒られちゃいそうだけど。まぁ、別に一日中寝てても授業にはついてけるし。学校に来てるだけ褒めて欲しいくらいだ。
私はひとつ欠伸をして、窓の外を眺めるように頬杖をついた。青い空、白い雲、・・・あぁ、憂鬱。もう少しで私の嫌いな夏が来る。ようやく梅雨が治まり時だと言うのに、全く嫌な季節だ。毎年思うが、この季節になると神様にいじめられている気分になる。夏だけじゃなくて冬もだが。っていうか年中?
「・・・熱心な事だねぇ」
ワイワイガヤガヤと楽しそうに走り込みをしている集団の姿が見え、思わずそう呟いてしまった。たぶんあれはテニス部だ。先頭に蔵らしき人が見えるから間違いない。
彼らの頑張っている姿を見るのはわりと好きな方だが、それでもああやって努力している様子を理解できた事は一度もなかった。なぜ「努力」なんてものをしなくてはいけないのかがそもそも不明だ。
「努力なんて疲れるだけよー」
それに、つまらないし。ぽつりと付け足してから、小さく形ばかりの笑みを浮かべた。小さい頃から私は、努力というものを嫌う。なぜなら、それを無駄だと思っているからだ。特に何もしなくてもなんでもできて、「できない」ことがない私にしてみれば、努力なんてものはまるで「無駄」な行為なわけで。
「まったく、つまんねー世界だよ」
もしこの命と引き換えに別の命が助かる、とか言われたら間違いなく差し出すだろう。生きる事を楽しめない私より、生きたいと願う命の方がよっぽど大切だと思わない?
「・・・ほんと、楽しそーに笑うよねー」
蔵を見つめて、そんな事を思う。私なんかの傍で君が笑っていてくれる内は、・・・まぁ、生きてても良いかな、と少しだけ幸せそうに言った。
「・・・・・・お、アレはたしか・・・」
蔵の彼女さんだ。
「手ー振ってるー。朝から元気なことで」
遠くからでもわかるそのラブラブっぷりに、わずかに顔を顰めた。蔵が笑顔を向けて、彼女さんも蔵に笑顔を向けて。なんて幸せそうなんだろうか。
(・・・あ、目ぇ合った)
ふとこちらを向いた蔵が、同じように笑顔を浮かべた。嬉しそうに、幸せそうに。私もそれに無表情ながら少しだけ手を振って、ほんの少し微笑んだ。
(今日も彼女さんと一緒に帰るんだろーなー)
でも、それも良い。
また明日私に笑顔を見せてくれるなら、まだ生きたいと思える。
ただ。
(なんだろ、ちょっと、寂しい?)
・・・ただ、これが恋だというのなら、私は相当な馬鹿なのかもしれない。
笑顔の蔵を見つめて、私は心の隅でそんな事を思った。
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