||タイムリミットは君が死ぬまで


*隠れ鬼のルール
鬼役が目を瞑って10秒数える間に全員がどこかに隠れます。10秒経ったら制限時間中に鬼は隠れている人を探し出し、隠れている人は鬼に見つからないように逃げ続けます。鬼に見つかり、「○○さん見っけ」と言われた時点で、その人は捕まった事になります。



足音が近付く。トン、トン、と規則的な音を鳴らして。
もうすぐ夏だというのに酷く冷え切っている廊下は、例え誰かの息遣いであろうとも嫌に大きく響かせてしまう。近付いてくる気配に、私はただでさえうるさい心臓を余計に騒がせた。この心臓音すらも聞こえてしまうのではないか、という恐怖が、全身を駆け巡る。

「・・・・・・」

足音が止まった。息を殺し、その人物が去るのを待つ。早く、早く、と身を小さく固めてそれを強く願った。彼の足は、動かない。

「ここにもおらへんみたいやなぁ」

この緊迫した場面には、不釣合いだと思うほど明るい声音。にこやかな笑顔を浮かべてそう言った蔵は、ぐるりと辺りを見回した後、こちらを見てぴたりと動きを止めた。心臓の鼓動が、一気に限界までスピードを上げる。その恐怖に、眩暈すら覚えそうになった。

「・・・さーて、今ここで見つけた事にしてもええんやけど、それだとおもんないもんなぁ」

・・・バレている。その焦りからか恐怖からなのか、首筋の辺りを幾つもの脂汗が伝っていった。ここで見つかったら、私は。

「・・・なぁ、どっちがええ?」
「ひっ・・・・・・」

急に身近で声が聞こえ、私は引きつったような声を上げる。耳元でそう囁いた彼の表情は、酷く冷たかった。ただその口元だけが、至極愉快そうな笑みを浮かべている。

「結奈ちゃんはまだ、アイツらみたいになりたくないやろ?」

言われて、走馬灯のように大好きな皆の顔が浮かんでいった。光くん、謙也さん、金ちゃん、と、順番に浮かんでは消えていく。・・・その中には勿論、私の彼氏「だった」千里の姿もあるわけで。
記憶が鮮明に思い起こされ、改めてぞくりと背筋を悪寒が走った。

「見逃して、くだ、さい」

途切れ途切れに、呟くように言う。皆は、逃げろと言った。千里は最後の最後まで私を好きだと言ってくれた。だから私は、生きなくちゃいけないんだ。

「・・・やーめた」
「!!」
「今結奈ちゃん、千歳の事考えたやろ」

にっこりと蔵が笑った。そうして蔵が私のあごをぐいと持ち上げ、首に手をかけて・・・

「・・・結奈ちゃん、見ーっけた」

蔵がそう言った瞬間、私の意識は暗闇へと落ちていった。





「っ!!」

悪夢に、目を覚ます。ばくんばくんと心臓がうるさい。慌てて辺りを見回せば、そこが何の変わり映えもない自分の部屋である事がわかった。汗でぐっしょりしている身体を起こし、ほっと息を吐く。そうしてベッドから出たところで、コンコン、とノックが聞こえた。

「・・・お母さん?」

それぐらいしか心当たりがない。私の声に、ギィィ、と扉が開いた。

・・・そこに、立っていたのは。


イムリットはぬまで


悪夢は、終わっていなかった。
――――――――――――
ホラー(笑)でした。怖くない……。

2012/3/27 repiero (No,36)

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