||策略
◇
1週間が経った。あれから蔵には会っていない。本気で好き、などとほざいたわりには呆気ない別れだ。このままもう二度と会う事もないだろうと、鼻を鳴らした。
どうも最近、苛々とする。今日はせっかくの日曜日なのに、気分が悪い。
私は小さく頭を振って、家を飛び出した。この際もう誰でも良い。この苛立ちを私に忘れさせてくれるならば、もう、誰でも・・・。
「あ、萌」
なぜあなたがいるの?
真っ先にそう思った。嫌悪感は表情にも出ているようで、目の前にいる男・・・、蔵が苦笑した。自然と呆れたような溜息が漏れて、それに蔵がわざとらしくおどける。でも、漏れてくるのは乾いた笑みばかりだった。
「元気ないやん?」
「誰のせいだと思っているの?」
「え、それってもしかして俺?俺の事で悩んでくれてるんか!?」
「なにそのポジティブ。ウザいわよ」
「ははっ、よく言われるわ」
ポジティブで変態でウザいって、それ大丈夫なの?と一瞬思ったが、言わないでおいた。それを例え差し引かなかったとしても、彼には十分な魅力が備わっている。
「なぁ、萌。今から俺と・・・」
「ごめんなさいね、ヤれない男に用はないのよ」
たぶんデートか何かの誘いだろう。瞬時に悟った私は、彼の言葉を断ち切るように言ってやった。我ながら、酷い言葉だと思う。
「・・・・・・なんで、」
「なんでもなにも、私にとっては・・・」
「いやいや、そういう意味じゃないんや。・・・なんで、そないに苦しそうなん?」
「・・・・・・あなたが気にするような事じゃないわ」
苦々しげに言う私に、蔵が悲しそうな顔をする。・・・その哀れむような表情、ムカつくのよ。私には哀れみも何もいらない、ただ快楽さえあればそれで良いんだ。
「萌」
不意に、抱きしめられた。あたりにはたくさんの人がいる、周りはほんの少しだけうるさくなり始めた。そうでなくてもうるさいというのに、良い迷惑だ、本当に。
「好き、やで」
小さな震える声で呟く彼に、ぞわ、と全身の毛が逆立った。猛烈な怒りが押し寄せてきて、私は彼をドン、と突き放した。
悲しそうな蔵の瞳と視線が絡む。
「私は何も要らない! あなたなんて必要ないの!!」
そうして、走り出す。
どうして。どうして私は、今更こんな感情を抱いてしまったのだろう。
不仕合わせで、不幸せな世界なら、もう何もいらないじゃないか。それはもうとっくにわかっていた事実のはずで、ただ快楽だけ得られれば良いんだと、それに納得すらしていたのに。
揺れていた。不安に、憎悪に、悲しみに、愛しさに。もう、何を信じれば良いのかもわからない。
家の扉を乱暴に閉めて、鍵も閉めた後、・・・久しぶりに、泣いた。
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