||欲求




『1/100,000,000の出会いをした』


周りは自分の愛する恋人や友達なんかの事をそうはやしたてる。けれど、私に言わせてみれば正直そんなものどうでも良かったりする。
どういう星の元に生まれてきてしまったのか、私は昔から人との巡り合わせが悪い。それをはっきりと自覚したのは高校の時だったが、今思えば生まれた時からすでに知っていたんだと思う。

『愛してるよ』

そう言った恋人には愛人がいて、

『私達、親友だよね?』

そう言った友人はその恋人と一緒に蒸発した。

『萌子』

唯一信頼できた両親も、私が高校に上がった直後に亡くした。

周りはこうも幸せを叫んでいるのに、私には不幸しか訪れない。ああ、なんと不仕合わせな世界だろう。それに気がついてしまつんた私は、独りを選んだ。毎日毎日、何も起こらない日々を繰り返すだけ。

幸い、私は容姿に恵まれていた。それを利用すれば、男なんてすぐに落とせる。他の誰かにどう恨まれようが関係ない。私はこの快楽に溺れてさえいられればいいんだ。

「・・・ねぇ、」

そうしてまた、私は深い深淵へと落ちていった。





「ねぇ、」

男が振り返る。あぁ、今回のはかなりの当たりだ。こんなイケメン久しぶりかも。前に会った忍足くん以上だ。それにしても彼は変態だったな。

「あなた、今暇かしら?」

クスクスと笑みを溢しながら言葉を紡ぐ。すると彼は一瞬だけ逡巡したあと、こくりと頷いた。それに笑みを深めて、小さく彼を手招く。

「何の用や?」
「簡単なことよ。ちょっと私に付き合ってくれない?」

にこり、と笑顔を浮かべる。大抵の男はここで悩殺だ。しかし男は特にそれを気に介す事なく、うーん、と何やら考え始めた。
まさか断るつもり?と嫌な予感が頭をよぎる。久しぶりの上玉なのに、逃がすわけにはいかない。まあ、いくら顔が良くても、私の場合下の方が良くなきゃ意味ないんだけど。

「・・・ま、ええわ。おまん、名前は?」
「今井萌子。覚えておいてね」
「人の名前なんてそう簡単に忘れんわ。俺は白石蔵ノ介や」
「そう、白石くんね。・・・蔵と呼んでも構わないかしら?」
「別にええけど。・・・なら俺は萌って呼ばせてもらうわ」
「どうぞお好きに」

クス、と肩をすくめて笑う。どうせ今夜限りだろうが、そのままセフレに転じても別に構わない。今までそういう男には五万と会ってきたから。

「そんで?なに、ヤりたいん?」
「・・・あら、そこまで単刀直入に来た人は始めてよ。ま、そういう事」
「やっぱりそうなんか。悪いけど、そのつもりはないで?」
「それならどうして応じたの?」
「・・・ま、はっきり言うなら萌が俺のタイプだったって事や」
「・・・・・・そう」

にこりと爽やかな笑顔を浮かべて言う彼を見つめ、小さく呟いた。それから顎に手を当てて軽く思案する。
ヤれない男に用はないけれど、たまには遊んでみるのも良いかもしれない。私は口元に怪しげな笑みを浮かべて、男の手を取った。

「じゃあ、行きましょう?」
「ん?ええんか?」
「ええ、良いわよ。遊んであげる」
「そんな上から目線な女、初めてやわ。やっぱりタイプや」
「ずいぶんと殊勝な趣味なのね」
「ははっ、よく変態って言われるわ」

楽しそうに笑う蔵を見て、私はあえてつまらなそうな顔をした。蔵はそれを見抜いているのかいないのか、にこにことした笑みを崩さない。
扱いにくい奴に当たったかもしれない、と小さく舌打ちした。

と、そこで電話がなった。私はそれに首を傾げ、携帯を取り出す。セフレからの呼び出しのメールだった。どうやら私は今から一発ヤらなくてはいけないらしい。まぁどうせこいつとヤるつもりだったから構わないけれど。

「ごめんなさい、人に呼ばれたから私は帰るわ」
「なんや、帰るん?だったらメアドと電話番号交換しとかん?」
「・・・あまり、必要性を感じないんだけど」
「俺にとっては重要なんやって。じゃあせめて、これ。俺の連絡先や」
「私に連絡しろと?」
「いつでも待っとる」

笑顔の蔵は、私に無理矢理連絡先の書かれた紙を渡し、そのまま走っていなくなってしまった。私はそんな後姿を見つめて溜息をつき、紙をポケットの中に放ってその場を後にした。

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