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夜は過ぎて、また朝がやって来た。あの後蓮二との会話はなく、そのままに夜は明けてしまった。

「・・・っ、」

昨夜の事が思い出され、ぶるりと震える。"恐ろしい夢ほどリアルに思えるものだ"と誰かが言っていたが、あれは間違いなく夢ではなかった。紛れも無く、現実の。

怖かった。何よりも、蓮二のあの冷たい瞳が怖かったのだ。まるで、私を汚らわしいものと、見るような。

ガチャ

そこまで思考を続けたところで、扉の開く音に顔を上げた。そこには蓮二が無表情に立っていて、私はそれを見つめ返す。もうとっくに蓮二は仕事に行っているものだと思っていたから、少し驚いた。

「・・・連、」

私が彼の名前を呼ぶのと、ほぼ同時だった。

蓮二が私を押し倒した。馬乗りにされ、手早くパジャマのボタンを外される。咄嗟に抵抗しようと掲げた手は、あっさりと蓮二に止められて。昨夜の光景がフラッシュバックするような、そんな恐怖に襲われる。
あの男と蓮二の姿が重なり、さっと顔が青ざめていくのが自分でもわかった。

「蓮二、やめ・・・」

うるさい、とでも言うように唇をふさがれた。蓮二は何も言わないのに、ここまで心がわかってしまうことが可笑しかった。

「ん・・・ふっ・・・!」

身体は蓮二の体重に、唇は連二のそれに、両腕もまた彼につかまれている。抵抗の余地は、全くと言って良いほどない。したところで、女の私が彼に叶うはずもない。

「ふぅっ・・・んんっ、ん・・・」

蓮二の舌が、私の口内を這い回る。全てを舐め取っていくようなかき回し方に、快感と共に背筋が泡立った。いつもの優しい蓮二を知っているからこそ、怖い。

唇を離された。はぁ、はぁ、と息を整えようと荒く息をする私をよそに、蓮二は私の服を脱がしていく。パジャマのズボンと下着を一気に下ろされ、外気に身もだえした。蓮二はそんな様子も無視で、まだ慣らされてもいないそこに触れようとする。

「蓮二っ・・・!!」

嫌だ、と心が叫びを上げたところで、・・・ガタリと、すぐ傍で何かが落ちる音がした。蓮二は行為をやめ、私もなんとかそちらに顔を向ける。

ポロン、ポロン、とメロディーが流れ出した。

「・・・・・・」

落ちたのは、ベッド脇のテーブルに置いてあったオルゴールだった。昔蓮二に誕生日プレゼントとして貰ったものだ。眠れない夜は、未だにこれを聞く事がある。彼にとっては知らないが、私にとってはとても思い入れのあるもの。
もうずい分前に覚えてしまった物悲しいメロディーが流れ出し、私達はしばしそれに耳を傾けた。

「・・・・・・」

蓮二が、腕をどけた。私の上から退いて、じっと私の方を見る。身体を起こしてそちらを見つめるが、蓮二は何を言わずに背を向けて出て行ってしまった。その瞳は、やはり冷たい。でもどこか寂しげで。


刻むの旋律


ねぇ、蓮二。あなたは一体何を思ってそんな顔をするの?

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