||04
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ふと、目を覚ました。
薄く瞼を開いて、天井に視線を走らせる。しばらくしてから身体を起こせば、自分が何も身につけていない事に気がついた。一気に昨日の行為の事も鮮明に思い出し、そういえば蓮二がいないな、と辺りを見回した。
また彼は、仕事へと出かけてしまったらしい。
はぁ、と溜息を吐いて、軽くシャワーを浴びてから衣服を身につけた。昨日蓮二が立っていた窓辺に近寄ると、窓もカーテンもきっちりと閉め切られている。考えてみれば当たり前の事だが、どうしてかそれが"そこに蓮二がいた"という証拠まで揉み消してしまっているような気がして、無意識に窓の淵に手を滑らせた。
「・・・・・・」
カラカラカラと音を立てて窓をあける。入ってきた風は、昨日より温かく、昨日よりも優しい。カーテンが風になびいて、日差しの眩しさに目を細める。
「良い天気」
ぽつりと呟くように言って、窓の外を見る。
見慣れた景色のその中で、家の前の道路から見知らぬ男がこちらを見つめているのを見つけた。首を傾げて、それをよく見ようと身を乗り出す。すると男がこちらに手を振ってきた。
「・・・?」
可笑しい、彼は確かに知らない人のはずなのに。なんと返して良いのかわからずに、とりあえず周りを見回した。当然だが、やはりここには私しかいない。
「・・・え、」
再度窓の外に視線を向けた後、私は驚きに目を瞬かせた。確かに男がいたはずの場所には、すでに誰もいなくなっていたからだ。慌てて辺りを見るが、人影は見当たらない。
そして男の代わりとでも言うように、先程の場所には一匹の黒猫が残されていた。こちらをじっと見つめて動かない。
「・・・気のせい、?」
眉をひそめた私をよそに、猫は興味を無くしたように顔をそむけ、スタスタとどこかに歩いていった。はぁ、と溜息をついて、部屋に戻る。面倒だから、窓はこのままで良いや。
隠れだす猫そよ風にカーテンが揺れた。その向こう側で、男が笑った。
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