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鳥のさえずりに、広いベッドの上で目を覚ました。んん、と身体を伸ばして、起き上がる。辺りを見れば、いつもと変わらない静かな部屋が私を出迎えた。
『奈菜、』
頭の中を、蓮二の熱い吐息が駆け巡る。
昨夜身体を重ねたはずの彼はもういない。この家で同棲している私の彼氏は、あまり自分の事を私に教えてくれない人だった。反対に、彼は私の事ならなんでも知っているというのに。
ふ、と溜息を漏らせば、窓の外で鳥が再びさえずった。
「今日は、何時に帰ってくるのかな」
彼は職場でかなりの重役についている為、帰りの時間は夜遅くになる。それ自体は致し方ない事だが、時々、それがどうしようもなく寂しく感じられる事があるのだ。夜中にふと目が覚めた時、未だ彼が帰ってきていないのを見ると、不安が津波のように押し寄せてくる。
本当に彼は仕事なのか?
どうしてまだ帰ってこないのか?
なぜ彼は何も教えてくれないのか?
ひょっとして、私以外にも女がいて、その子に会っているんじゃなかろうか。そう思ったことは、もう数え切れないほどだ。
私にとっての彼は、最愛の人以外の何者でもない。挨拶を交わしたり、名前を呼んだり、身体を重ねたりする度に、それを再確認している。
では、彼にとっての私はどうなのか。その答えは私には検討もつかない。同じように思ってくれていればこの上ない幸せなのだが、果たして私は彼の事をほとんど知らない為に、それを推測する事すらままならない。
「蓮二・・・・・・」
悲しげに名前を呼べば、彼が帰って来たりはしないだろうか。
そんな事を思って、私は小さく笑った。彼に他の女がいない、という確証はどこにもないという事実が、どうしようもなく辛かった。
愛する人が罪を犯していないという確証あぁ、今日もまた彼は消えてしまった。
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