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カチッ、カチッ、カチッ、と、針音が規則的に鳴り響く。華やかな街の真っ只中であるにも関わらず、外は異様と思うほどに静かだった。背後で感じる穏やかな寝息は、暗闇の中だと嫌に艶やかな雰囲気をもつ。
時計は確認できないが、おそらく深夜の0時は回る時間帯であろう。眠る直前に感じた妙に高揚した気分はどこへやら、今は酷くそれが罪悪的に感じられていた。となりで眠るのは素性も知らぬ男、恋人であるはずの蓮二は勿論いない。
「・・・・・・」
幸村を起こさぬようにゆっくりと起き上がり、ベッドから出た。そっと彼を振り返って息をつき、慎重に、玄関へと向かった。
靴を履き、扉のノブに手をかけたところで、
「どこに行くつもりだい?」
という、男の声が聞こえた。
瞬間、体が凍りつく。固い動きで振り返れば、案の定そこには幸村がたっていて。
「もう帰っちゃうんだね」
幸村はクスリとだけ小さく笑って、私を優しげな瞳で見つめた。一言も声を発することができない私に、幸村は
「良いよ、また何度でも攫うから」
と悲しげに笑った。
意外な返答に目を大きく見開いた私だったが、急にハッとなり、慌てたように家を出ていった。また何度でもと言うことは、きっと再び会う機会があろう。その時はしっかりと話して、謝ろう。だから、それまでは・・・、
寝静まった回廊それから、幸村が現れる事は二度となかった。
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