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2人のあいだには無言がおりていた。街を腕を引かれながら歩き、ネオンの明かりも気に介す事なく進んでいく。その時はっきりと、男の姿が見えた。
男は青いウェーブのかかった髪に、深い藍色の瞳をもっていた。優しげな瞳はどこか遠くを見つめているような気がする。白い肌はまるで女性のようにしなやかだった。身を包む服は、清潔でとても高価そうに見える。
「名前をまだ言ってなかったね」
「あ・・・・・・」
「俺は幸村精市。君は、野宮奈菜だよね?」
「・・・は、い」
なんとなく、敬語になって頷いた。男・・・幸村はそれにクスリと笑い、歩くペースをホンの少し早めた。そうして間も無く、彼の家へと到着した。
「入って」
人の家に侵入してくるぐらいなのだから相当貧相なのかと思っていたが、予想に反し幸村の住んでいるアパートはかなり高級な所だった。豪華絢爛というわけではないが、それでもその価値はしっかりと見てとれた。
幸村は私をベッドに案内し、そっとそちらに促した。それに思わず躊躇う。
「安心して、何もしないから」
男はそれを読み取ったかのようにそう笑った。
「今日からここに住むんだよ」
優しげな声音で告げた幸村に、どうして、と尋ねる。しっかりと考えて発した言葉ではなく、それは酷く突発的な疑問だった。
私の射抜くような視線には何も答えずに、彼はおやすみとだけ言った。
疑心暗鬼パラサイト思いもよらぬ優しさに、戸惑った。彼のそばにいると、どうしてか罪の重さを実感してしまう気がする。
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