||23
◇
『やめて!!』
と、彼女は確かに言った。
あれから流れた沈黙は重い。こちらは奈菜を守る為に男を取り押さえようとしていたわけで、少なくとも自分にとってはそこに他意はなかった。それなのに、彼女は俺に守られる事を拒むかのようにそんな事を叫んだのだ。そこにあったのは、ただ強い拒絶のみだった。
男はしばらく状況を眺めて楽しんでいるようだったが、やがて言った。
「僕と一緒に行こう」
男が笑った。それに彼女が頷く。男が彼女の手を取った。
慌てて引きとめようと彼女の腕を引けば、
「離して!」
と強い口調で叫ばれる。そのたった一瞬で、ショックと驚きに身動きできなくなってしまった。男は相変わらず嘲笑うかのようにこちらを見つめていた。もう、手を伸ばすことはできない。
「それじゃ、行こうか」
「・・・うん」
目の前で連れ去られていく奈菜に、夜闇に溶けていく2人に、俺は何も言えなかった。
過ぎ去る君を引き止める術なんてそのまま2人は窓から出て行ってしまった。
[24/32]
[
prev/
next]