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それから、蓮二はすぐに帰ってきた。笑顔を浮かべようとした私だったが、彼の様子がどこか可笑しい事に気がつき、不審げに眉を寄せた。
彼は少し逡巡した後、申し訳なさそうにこう言った。
「・・・用事が出来た」
「え?」
「すまないが、一人で回っていてくれないか」
蓮二の言葉は、あまりに突然で。
「・・・奈菜?」
「・・・・・・か」
「え、」
「蓮二の、馬鹿っ!!」
そう怒鳴りつけて、私は彼とは反対方向に走り出した。後ろから名前を呼ばれた気がしたけれど、戻る気にはなれなかった。あぁ、私、なんて醜いんだろう。
走って走って、その途中で見知らぬ綺麗な女性とぶつかった。
「ごめんなさ・・・」
その人は謝ろうとした私を冷えた目で見つめ、嘲笑うかのように
「無様ね」
と笑った。突然の事に目を見開いた私をよそに、背後から蓮二の声が聞こえる。私を追いかけてきたのかもしれない。しかし蓮二は、私を見て気まずそうな顔をした後、女性の方へ歩み寄っていった。
「え・・・、」
蓮二はこちらを見ることなく、女と2人で人ごみに消えた。
わたしは何を知るのでしょうただ一人、呆然と立ち尽くしていた。
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