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夕陽が山間に沈んだ。燃えるような赤を追いかけるようにやってきた藍色は、あっという間に空を埋め尽くす。ちりばめられた宝石のように輝く星達が、瞬きでもするようにそっと小さな自分を見下ろしていた。
満月を過ぎた下弦の月が、黄金色にその身体を染めている。もうすぐ11時を過ぎるが、月明かりは飽きる事無く下界を照らし続けてくれていた。

その情景に見惚れるようにして外を見つめていた私の視界に、突如黒い影が映った。

「やぁ、こんばんは」

まるで当たり前のように笑う男に、私は小さく苦笑した。この前ここに来た時は、確か蓮二に追い払われていたんだっけ。月明かりのせいかそれともこの心境のせいか、男に対して前までのような恐怖は感じなかった。
月に照らされ、その容姿を僅かだが確認する事ができる。男はウェーブのかかった青色の髪をしていた。

「また来たのね」

半ば呆れたように笑うと、男が肩をすくめる。それからふと私の方を見つめ、悲しそうな顔をしているね、と言った。

「気のせいよ」
「本当に? とても浮かない顔をしているように見えるけれど」

クス、という小さな笑いと共に男の口角が上がるのが見えた。どこまで彼が私の事を知っているのかはわからないが、どうやら男は私の感情を見抜いているらしい。

「ふふっ、またアイツに泣かされたんだ」
「泣かされてないわ」

ほんの少し、泣きそうになってはいたけれど。
男は相変わらずクスクスと笑っていた。

「僕と一緒になろう。そうすれば楽になる」

そっと手を差し出され、私の手を優しくその上に乗せた。まるで、舞踏会のワンシーンのように。男は端麗に微笑むと、2,3歩後ずさった。私の言葉を待っているらしい。

「・・・馬鹿なこと言わないで」

苦し紛れのように呟けば、男が笑った。
前までの私ならば、もっとキツく一言言ってやれたのかもしれない。でも、今の私には。

「それじゃあ今日は、この辺にしておくよ」


さすればは救われる


男の言葉は、どこまでも甘美だ。

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