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日も落ちて、夜になった。最近は、ベッドに潜る度蓮二の事で頭がいっぱいになってしまう。いや、それは前もそうだったのだが、前と違って今は不安で押しつぶされそうになってしまうのだ。
蓮二はどんどんと、私から離れていってしまっている気がする。

「やぁ」

不意に、声が聞こえた。慌ててそちらを見れば、見知らぬ男が窓辺に座っていた。部屋は暗いが、男の背後から月明かりがさしていたので、なんとなく輪郭はつかめた。

「・・・だ、れ?」

布団を握り締め、男の方を睨みつける。すると男が笑った。

「昨日の事、覚えてないの?」

言われて過ぎったのは、・・・あの光景で。

「まさかあんた・・・!!」
「おっと、今日は別に何もしないよ。君と話したかっただけだから」

男の方をキツく睨みつけながら、布団を握る手に力を込める。こいつのせいで、蓮二があんな目をしているのだと思ったから。恐怖より先に、怒りに近いものが沸いてくる。

「まぁ、怒ってもらっても別に構わないけどね。・・・それより、あの男とはうまくいっているのかい?」
「・・・蓮二の事?」
「へぇ、蓮二って言うんだ。そうそう、その男だよ」
「あんたには関係ない」
「そう言うと思った。まぁ良いよ」

クスクスと、男が笑った。私はそれをただ睨みつける事しかできない。不必要に言葉を交わせば、逆に弱みを握られてしまうような気がする。

「どんな形でも良いけど、俺の事は覚えておいてね。またきっとここに来るから」
「その時にはきっと捕まえてやる」
「今は捕まえないのかい?」
「そんな事をしたらまた余計な事件が起こりかねないでしょ?」
「ふふ、そうだね。確かにそうかもしれない」

男は笑って、ふと背後を振り仰いだ。男の後ろには窓しかなく、どうやらそこから外を眺めているようだった。男の視線が上へ上へと上がり、それからまたこちらを振り返る。男が歩み寄ってきた。

「・・・来ないで、」

男の歩みにあわせ、ベッドの上を後退していく。そのまま行くと君、落ちるよ?と男が言って、それと同時に手を踏み外しかけた。

「・・・っ、」
「クスクス・・・。君は本当にかわいいね。最初に言っただろう、今日は何もしないって」
「信用できない」
「そう?酷いなぁ」

男がまた笑って、私のベッド脇にあるテーブルに手をついた。そこには、今朝落としてしまったオルゴールも勿論置いてある。それに男が手を伸ばしかけたところで、

「それに触れないで!!」

私は、ほとんど無意識に叫んでいた。男の手が止まり、こちらを一瞬見てから肩をすくめて謝ってくる。私はそれを睨みつけるようにして、息を吐いた。

「君にこれを残していこう」

男がなにやら大きな物を取り出し、テーブルの上に置いた。相変わらず真っ暗でよくは見えないが、一瞬それが月明かりにきらりと光った。

「砂時計だよ」

男が言う。なるほど、確かにそう言われてみれば砂時計に見えなくも無い。だがしかし、私が普段目にするものとはかなり大きさが違った。3倍、いやそれ以上の大きさだ。

「・・・この砂時計の落ちる頃に、君を迎えに来る」
「はぁ?意味が・・・」

私が言い切るのが先か後か、男は素早く窓辺に歩み寄って一気に飛び降りた。私はそれに一瞬はっと息を呑むが、窓の外から小さく着地音が聞こえ、飲み込んだ息を一気に吐き出した。ここは2階だというのに、なんという男だろうか。

『この砂時計の落ちる頃に・・・・・・』
「・・・・・・」

男の残していったものを睨みつけて、唇を噛む。私は無言でそれを掴み、思い切り壁の方へと、投げた。

パンッ、と音を立てて砂時計が割れる。破片がベッドの足元近くまで転がってきて、私はそれを無表情に見下ろした。
男の消えた窓辺を鋭く見据えてから、私は深く布団にもぐりこんだ。


すなとけいを


こんなもの、私には必要ないから。

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