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精市さんが来てから、なんやかんやで1ヶ月が経った。不審者に間違えた日から始まり、今までいろんなことがあったなぁ、なんて考える。楽しかった。彼の笑顔が頭を過ぎり、ふ、と小さく微笑んだ。

コンコン、

と、ノックが聞こえ、振り返る。私は無言で立ち上がり、扉へと近寄った。誰が来たのかなんて考えない。きっと「彼」だろうなと思ったから。

「・・・精市さん」
「こんにちは、希さん。ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・」
「あぁ、はい。どうぞ中へ」
「ありがとう」

にこりと笑う精市さんを尻目に、私は踵を返して中へと入る。後からついてきた彼をもうほとんど何もない部屋に座らせ、私も向き合うようにして座った。

「見ない間に、ずい分殺風景になったものだね」

私の部屋を見て、ぽつりと呟くように精市さんが言う。そうですね、と返す私は、まるでそれを人事のように捉えていた。

「・・・これだけ見れば、十分だよ。どうして言ってくれなかったのかな」
「言う必要も、ないかと思いまして」

正直に言った。それは本心だったから。

「・・・希さんと仲良くなれたと思ってたのは、どうやら俺だけだったみたいだね」
「精市さんは友達ですよ」
「それなら、教えてくれても良いじゃないか」

精市さんの目は、悲しそうだった。いつもの穏やかな笑みは、そこにはない。私はそれを無表情に見つめ返し、軽く俯いた。

「・・・俺は、」

なにか精市さんが言いかける。でも精市さんは頭を振って、言葉を止めた。

「・・・邪魔したね」

精市さんは立ち上がり、見送ろうとする私を制して部屋を出て行った。私はその後ろ姿を見つめ、ふ、と息を吐いた。





荷物をまとめて、立ち上がる。もう部屋には何も残っていない。色々考えてみても、別に思い出も何もないなぁなんて思った。あぁ、でもこの部屋で飲んだビールは格別だった。特に、精市さんがくれたあのビールは。

鍵をガチャガチャとしめて、ふぅ、と息を吐く。それから部屋を離れようとしたところで、声がかかった。

「・・・あら、大木さん。大荷物みたいだけど、どこかに行くの?」
「高原さん」

下の階の住人を見て、私はにっこりと微笑む。それから頭をぺこりと下げた。


お世話になりました・・・え?ああわたし、引越しするんですよ。


そう言って笑う私を、後ろから精市さんが悲しげに見つめていた。
どうかしましたか、と聞くと、精市さんは何も言わずに部屋に戻っていった。

END

(俺にとっての君、君にとっての僕)

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