||06





この前の件で、幸村さんの趣味はガーデニングだという事がわかった。あ、あと絵画。確かに、どちらかといえば力仕事よりそっちの方が好きだろうなとは思ったが、まさか本当にそうだとは。今度絵も見せてもらうつもりだ。幸村さんにそれを言ったら快くOKしてくれた。あぁ、楽しみ。





「・・・わー・・・・・・」
「どうかな?」

想像以上。ただその一言につきる。
淡めの色彩で描かれたそれは、ベランダの花々をモチーフにしているようだった。色とりどりの花、その中央に立つ一人の女性。「大木さんだよ」と隣で幸村さんが補足してくれて、あぁ、わざわざ私なんかを描いてくれたのかと少し嬉しくなった。たくさんの物を描いているにも関わらず、そのどれをとっても雑な箇所がない。全てが丁寧に、時間をかけて描かれたようだった。

「すごいですね・・・」
「フフ、ありがとう」

にこにこと笑う幸村さんは、とても嬉しそうだ。私は絵をじっと見つめてから、幸村さんの部屋を見回した。
あまりジロジロ見るのは失礼かとも思ったが、あまりにその部屋が綺麗なので、少しびっくりしてしまったのだ。でも、幸村さんの穏やかな表情を見ていると、確かにゴチャゴチャとした部屋は似合わない。それよりも、真っ白くて整頓された空間にいるようなイメージがある。

「幸村さんって几帳面な方なんですね」
「そうかな?大木さんの部屋も綺麗に片付いていたけどね」

クスリと笑った幸村さんを見て、そういえば部屋に入れた事があったな、と小さく漏らした。あの時はあまりにも幸村さんが冷たくて、必死だったから。

「・・・そうだ。大木さん、俺の事幸村じゃなくて精市って呼んでよ」
「へ?なんでですか?」
「ふふ、別に良いだろ?あと、俺も希さんって呼んで良いかな」

にっこりと幸村・・・、精市さんが微笑む。まぁ、別に減るもんじゃないし。そんな事を思って、私はコクリとうなずいた。それに幸村さんがまた笑う。
しかしこのやり取りに意味は無いのだと、心の中で小さく思った。もうすぐ私は、彼とこうして会話もできなくなる。

「・・・そういえば、この前希さんがくれた煮物、美味しかったよ」
「あぁ、あれですか。夕飯の残りですけどね」
「最近買った物が多かったから助かったよ。実家のお婆ちゃん思い出した」
「・・・はぁ。それはどうも」


確かにおすそわけしましたけれど、
おばあちゃんの味とは、貶されてる気が大分。



精市さんは笑顔だった。たぶん悪気は無いのだろうと私は深く溜息をついた。
こんな些細なやり取りに幸せを感じてしまうのは、一体何故なのだろう。

[6/9]
[prev/next]

[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -