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あの後彼は書置きだけを残して帰っていった。朝目が覚めたらソファに寝ているはずの人がいないんだから、驚いた。でもちゃんと書置きとお礼らしいビールが一本置いてあって、安心した。ビールは今夜いただく事にしよう、と。


あれから何日か経った。もらったビールはとっくに無いし、今日はお休み。出かける気はないけれど、部屋に閉じこもっているのもなんだ。久しぶりに、ベランダに出てみようか。
あまり新しくないアパートだが、部屋はそれなりに広いしベランダのスペースも広めに確保されている。最近は突然の雨に備えて衣服を部屋干ししかしていなかったから、ベランダに出るのは久しぶりだった。それに、もしかしたらもうこのベランダに出る事は無いかもしれなかったから。

「・・・ん?」

ベランダに出た瞬間、思わず首をかしげた。なにやら、右側の方から綺麗な花々が顔を見せていたから。可笑しい、ここは2階のはずだ。そちらに視線をやれば、私の隣のベランダになんとも綺麗なお花畑があった。
わぁ、綺麗〜・・・っておい。なんだこれ。めっちゃ手入れされてて綺麗だけど、どうなってんだこれ。っていうかこっち側は幸村さんだよね?私のベランダまで花が侵食してるんですけども。

「あ」

ガラ、と音がして、隣のベランダが開く。中から出てきたのは勿論幸村さんで、手には水を一杯にいれたジョウロをもっていた。

「・・・あれ、大木さん?」

私に気付いて、幸村さんが首を傾げる。おはよう、と笑う彼に私も返してから、幸村さんの一連の行動を見つめた。優しげな瞳で花達を見つめながら、水をやっている。なんというか、彼は花がやたらと似合う。その中で佇んでいるだけで、こんなに絵になるとは。そんな事を思って、私は感嘆の息を漏らした。

「・・・それで、どうしたの?」

にっこりと微笑む幸村さんに声をかけられ、私はそこで初めて我に返った。あぁ、ええと、なんて言おうか。特に何も考えていなかった。

「えっと・・・その、」


ベランダでガーデニングもいいですけど、
隣にまで侵蝕してることに何かコメントは。



そう言ったら彼が笑った。後でなんとかしておくよ、だってさ。

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