||凶の知らせに気付く事なく


※本編を読まれてから読む事をおすすめします。



コンコン、と。
部屋の扉がノックされたのは、夜中の11時を過ぎる頃であった。すでに帰宅して寝る準備をしていた私は、すぐに誰が来たのかを悟って扉を開けた。待ち構えていたのは案の定彼。取り繕うように笑みを浮かべて、何の用ですか、と言った。できれば今日は、あなたに会いたくなかったのだけれど。

「こんばんは。用という用はないけど、顔を見たくなってね」
「そうですか。そう言って一昨日も来ませんでしたっけ」
「そういえばそうかもね。でも毎日来てないだけ良いだろう」
「だからって1日おきにしなくても。ここ1週間ずっとそうじゃないですか」
「気のせいだよ。迷惑かい?」
「いえ、そういうわけでは」

だったら良いじゃないか、と精市さんは呟くように言った。ほんの少し思い詰めたような表情に首を傾げたが、すぐにそれを隠すように笑顔になったので、特に詮索はしない事にした。必要以上に他人の事に首を突っ込むのは主義ではない。
私は基本的にギブ&テイクの精神で生きているので、相手に何かされない限りは自分も何もしない。緊急時の場合は致し方ないが。

「今から寝るところなのかい?」
「はい、まぁ、一応。もう少し起きているつもりですけど」

私がそう言うと、精市さんは考え込むように顎に手を当てた。私はそれをぼうっと眺めていたが、やがて彼が顔を上げた。

「じゃあ、少し俺と話していよう」
「・・・はぁ」

何を言うかと思えばそんなことか。微妙に眉を寄せて頷けば、精市さんはにっこりと端麗に微笑んだ。その美人スマイルは反則だと思う。

「じゃあ、中へどうぞ。虫に入られても困るので」

そう言うと、精市さんは素直に従ってくれた。虫に入られて困るのは事実だが、明日の事を考えると正直虫が入ってこようが入るまいがどちらでも良かった。ただ突っ立っているのが嫌だったという、それだけの為の言い訳だ。
ただ、ほんの少し、そこに彼への「期待」が篭っていたのは否めない。

「・・・あれ、掃除した?」
「いつもしてますけど。そんなに前は汚かったですか」
「いや、違う違う。なんか物が減った気がしてね。・・・ま、良いか」

彼の指摘した事は事実だ。確かに今の私の部屋には、前よりもかなり物がない。元々あまり物を置いていない方だったが、今は特に少ないと思う。私からしてみれば当り前の話だが、それを彼に説明する必要もないのでそこには触れない事にした。それに、彼がこの事を知れば面倒な事になるのも目に見える。
部屋の奥に詰まれたダンボールにちらりと目をやって、彼が気が付かない内にその部屋の扉を閉めた。彼はその行動になんの疑問も抱かない。

「・・・あ、そういえば希さんって彼氏いたっけ」
「いませんけど何か。嫌味ですか」
「そういうわけじゃないよ。第一、俺も彼女いないし」
「たくさんいそうに見えますけど」
「たくさんってどういう意味だい?」

影のある笑顔でそう言われ、反射的にサッと視線を逸らした。なんとなく射殺されそうな気がした。全く、精市さんは本当に魔王だと思う。

「自慢する訳じゃないけど、告白される事はかなり多いんだよ」
「はぁ。自慢にしか聞こえませんが」
「でも好きでもない子と付き合うのも嫌でね」

あれ、軽くスルーされた。

「じゃあ好きな人はいないんですか?」

何気なく尋ねた一言に、精市さんが開きかけた口を止める。それから呆れるように苦笑して、こちらをほんの少し悲しみの混じった色で見つめた。

「いる、といえば・・・いるかな」
「へぇ、そうなんですか」

あくまで興味無さそうに告げるが、内心はそれが誰なのか少し気になっていた。今まで他人にこういった類の興味を抱いた事はなかったのに。

「・・・希さん?」
「・・・あ、はい。なんですか?」
「いや・・・、なんでもないけど」

精市さんは何か言いかけたが、すぐに言葉を止めた。それから邪魔したねと言って立ち上がり、玄関から出て行った。私はその背を曖昧に見送って、なだれ込むようにソファに倒れ伏した。だるい身体を起こして、先ほど閉めた部屋の扉を開く。奥に詰まれた大量のダンボールには、元々部屋においていた様々な物が詰め込まれている。

「私、何時の間にこんな馬鹿になったんだろう」

精市さんに気付いて欲しかった、そう思っている自分がいて、自嘲気味に笑った。教える必要も無い、なんて口では言うくせに、本当は知って欲しくて仕方が無いんだ。どうしてそう思うのかはわからない。でも、特にそれについて考えようとも思わなかった。

「もう、寝よう」

どうせ明日で、終わりなのだから。


の知らせに気付く事なく


その翌日の事、私は彼に別れを告げた。
――――――――――――
番外編でした!
7話の前夜のお話です。
人気投票でこの話が人気だったので書いてみました。
アフターストーリーも書いてみたいものです。

お粗末様でした!

2012/7/5 repiero (No,49)

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