||優しい君


「樺地君、受け取ってください!」
「・・・ありがとう、ござい、ます」
「樺地君、これ・・・!」
「・・・どう、も」
「樺地様、どうかこれを!!」
「・・・ウス」

樺地さん、樺地さん、樺地さん。

皆が皆、彼の名前を陶酔しきった声で呼ぶ。氷帝テニス部レギュラーの中では、あまり目立たない彼ではあるが、実のところ隠れファンが多い。
跡部の付き人である事も関わって、普段は樺地と関わろうとしないファン達だが、バレンタインともなればそれも変わる。ファンの皆が、樺地への愛をチョコレートという形で彼に届けるのだ。
まるで捧げ物でもするかのように。

「・・・樺地!!」

そしてそんな中、一人だけやたらとうるさい女がいた。いや、その中で言えばうるさいってだけで、普通の基準で言えば全然うるさくないんだけどね?うん。

まぁ、その女が誰かと言えば・・・つまり、私だ。樺地ファンの一人であるわけだけど、同時に彼の幼馴染でもある。

「美優さん・・・」

まわりにいた人達がザワザワしだす。ある者は私に好意の目を向け、ある者は疑念の目を向ける。それに混じって奇異の目や軽蔑の眼差しも飛び交い、私はそんな中を悠然と歩いていった。

「・・・美優、ですか」
「おうよ。・・・ほら!」

持っていた包みを、乱暴に彼に投げつける。樺地はあえてそれを取ろうともせず、しかし軽く身を捻って、バン、と体で受け止めた。あのまま樺地が棒立ちだったら、後ろの壁にぶつかっていただろう。手で取らなかったのは、たぶんそうすると包みが握り潰されてしまうから。
樺地は落ちた包みを拾い上げ、それからじっと私を見た。なんか、久しぶりに樺地と目があった気がする。

「じゃ、そういう事だから」

に、と笑みを浮かべた私に、樺地がにこ、と小さく微笑む。それを見ていたファンの人たちはザワザワザワザワ。今の見た、樺地様が・・・、樺地さん、笑った!きゃぁ、樺地君が!!・・・あぁもう、ギャラリーうるさいって。

「ありがとう、ございます・・・・・・」

そう礼を言う樺地に笑いかけ、私は踵を返した。後ろではまだザワザワとうるさい。樺地は未だ私の事を見つめているようだった。気配でわかる。あいつの眼差しはいつだって優しい。


しい君


今度久しぶりに一緒に帰ろうか、と気まぐれに思った。あいつは喜ぶだろうか。
――――――――――――
樺地難しい!

2012/2/27 repiero (No,23)

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