||正夢チョコレート


『・・・、から・・・。受け取って・・・かな』

『・・・!・・・・・・とう!!』

『・・・芥川さん、』


――――、

「・・・また、あの夢だC」

くあぁ、と大きく欠伸をして、俺はきょろきょろと辺りを見回した。
どうやら今は授業中らしい。先生が黒板になにやら難しげな数式を書いている。その様子を見て、黒板というより緑板と言った方が正しいんじゃないかとふと思ってしまった俺は相当寝ぼけているかもしれない。いつもの事だが。

(・・・なんなんだC、あの夢・・・・・・)

先ほど見た虚ろな夢を思い出し、首を傾げる。昨日の夜から、眠るたびにこの夢を見る。夢は戻りも進みもしない、同じシーンを繰り返すだけ。
何かの暗示か、とも思ったが、そんな事が実際にこの世界にあり得るのか。

「それにしても眠いC」

再び大きな欠伸が漏れる。さっきの夢の事はどこへやら、今の俺の頭の中には眠る事しか考えられなかった。ちらりと黒板・・・いや緑板を一瞥してから、机に突っ伏す。目を伏せた途端、眠気が更に強烈になって襲い掛かる。
そうして眠りにつく直前、ふと、今日がバレンタインである事を思い出す。

(もしかして、何か・・・関係・・・が・・・・・・)

心の中で呟くのと同時、俺は意識を完全に手放した。





「・・・芥川さん、芥川さん!!」

激しく揺さぶられて、俺はやっとの事で重い瞼を持ち上げた。その途端、見覚えの無い女子生徒の姿が目に入ってくる。その姿を両の瞳に捉えた瞬間、一気に意識が覚醒した。目を大きく見開いて、その女の子を見つめる。

「あ、おきましたね!」

にっこりと笑う女の子から目が離せなくなって、俺は心の中で少し狼狽した。ドキドキと心臓が高鳴る。なんだ、この感覚。頭の中で答えを必死に探すうち、「一目惚れ」という単語が過ぎり、余計に頭を混乱させた。

「・・・だ、誰だC?」

微妙にどもった声で告げる中、俺はにこにこと笑う女の子の姿に、ほんの少しの違和感を覚えた。確かに初対面の人のはずなのだが、どこかその姿に見覚えがある。でも、どうにもそれが思い出せない。

「私は林田です!先生に起こして来いって頼まれて」

言われて、辺りを見回すと、驚いた事に彼女をのぞいて誰も人がいなかった。静かな教室で、ずっと眠っていたらしい。もう部活は終わる時間だ。もう部活を引退した後だから良いが、そうでなかったら俺は一体どうなっていた事か。

「そっか・・・。ありがとだC」

大方、俺が下校時間も近いのにまだ教室で眠りっぱなしだったから、先生が気を回してくれたのだろう。それだったら先生が起こしにくれば良いものを、と思ったが、林田さんと会えて喜んでいる自分がいたのでそこは気にしないことにした。むしろ先生ありがとう。

「あ、そ、それと・・・・・・」
「?どうかしたんだC?」
「そのね、今日はバレンタインだから・・・。これ、受け取ってくれないかな」
「・・・あっ、ありがとう・・・・・・」

渡された包みを見て、俺は思わず頬を赤く染めながらそれを受け取った。彼女もまた顔が赤くて、俺が受け取ったのを見て嬉しそうに笑っていた。

「受け取ってもらえて良かった!ありがとう!!」
「・・・あ、」
「じゃあ、またね芥川さん」
「ちょ、ちょっと待っ・・・・・・」

俺が言うよりも早く、林田さんは教室を飛び出していってしまう。俺は受け取った包みを握り締め、ただ呆然とその後姿を見つめる事しかできなかった。


夢チョレート


チョコをくれた林田さんは、何の因果か夢の中の女の子に酷似していた。
――――――――――――
甘めな話。予知夢見ちゃうジロちゃん。

2012/2/23 repiero (No,21)

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