||嫌いの後の口直し


「亮なんて・・・、大ッ嫌い!!!」


今朝の事だった。クラスメイトと委員会の話をしている最中、突然、最愛の彼女にそう告げられた。あまりに急な事だったから、俺は驚いて、目を数回瞬かせる事しかできなかった。はぁ、はぁ、と肩で息をする彼女には悲しみの色が見える。目には涙が溜まっていた。

「・・・っ、」

そのまま走って教室を出て行く彼女を見つめ、数秒後、我に返った。慌てて名前を呼んで追いかけるが、彼女の姿はもうどこにもない。

「美優、なんで・・・っ!?」

困惑したまま呟いた俺の声は、誰にも届かずに宙に消えた。





「あの、宍戸先輩・・・っ、これ!」

顔を赤らめて何かの包みを差し出してきた女子生徒を見て、あぁ、そういえば今日はバレンタインだったなぁと思い出す。美優の言葉が衝撃的過ぎて、忘れていた。授業は勿論、友人の言葉すらも耳に入らないのだから、俺はどうかしていると思う。でも、それだけアイツの事が大切なんだ。

「悪いけど、受け取れねぇ」

力なく答える俺に、女子生徒が泣きそうな顔をして走り去っていく。俺はその後姿をぼーっと見つめ、深く息を吐いた。さっきから浮かぶのは美優の顔ばかり。どうしてあんな事を言われたのかわからない。
なにか俺に不備があったのだろうか。それならそうと言って欲しい。俺はまだこんなにもアイツの事が好きだ。

「あ、宍戸さん」
「・・・長太郎か」
「そうだこれ、買った物ですけどどうぞ。日頃のお礼です」
「・・・サンキュ」
「・・・元気ないですね?宍戸さんらしくないですよ」

心配そうな顔をした長太郎を見て、また視線を床へと落とす。もらった包みは今にも手から滑り落ちていきそうだ。全身から力が抜けてしまっている。

「・・・もしかして、美優先輩となにか?」
「・・・なんでもねーよ」
「あ、宍戸さん!?」

長太郎にも心配されるなんてな。・・・クソッ、今の俺、激ダサだぜ・・・・・・。

とりあえず、今はまだ昼休み。女に呼び出されたせいでくだらない時間を過ごしたが、帰りまでには時間がある。それまでにアイツがなぜあんな事を言ったのか考えないと・・・・・・。

「・・・教室、行ってみるか」

ポツリと呟いて、俺はアイツの教室へと歩を進めた。近付くにつれて、ザワザワという雑音が大きくなってくる。何かあったのだろうか。

「・・・おい、」

教室の前に人だかりができているのを見て、俺は眉間に皺を寄せた。近くにいた奴に適当に声をかけて、何事かと尋ねる。返って来た答えは、「林田って女がいじめられてるらしい」という言葉だった。

林田、という名前を聞いて、たった一人、ある人物が頭に浮かんだ。その瞬間、俺は慌てて教室の中へと雪崩れ込むようにして入っていった。

「・・・美優!!」

バン、というすごい音がして扉が開く。横開きの、ただでさえ立て付けの悪い扉は、今の衝撃で軽く外れかけてしまっていた。しかし、そんなものを気にする素振りすら見せず、俺はズカズカと中に入っていった。

「しっ・・・宍戸くん!?」
「りょ、う?」

クラスの奥の方に、美優の姿が見えた。幸いまだ何もされていないようで、多少髪は乱れているものの、それ以外に異変は見当たらなかった。

美優は6人ぐらいの顔も知らないケバい女に囲まれていて、たぶん俺絡みの件でこうなったんだろうなとわかった。

悔しさがこみ上げてくる。
どうして気付けなかったんだろうと、自分を心の中で責めた。

「・・・何してんだよ、お前ら」

キツく、睨みつける。すると女達が怯えるような表情をして口を開く。

「あ、あたし達・・・別に、何も・・・・・・」
「じゃあなんで美優が泣いてんだよ!!」

大声で、吠えるように言ってやる。すると女達はひっ、と声を漏らして慌てたように教室から走り去っていった。

すぐに、美優に走り寄る。ぽろぽろと涙を零す美優を、無言で、力強く抱きしめた。大嫌いと言われた俺に、そんな資格があるのかはわからなかったけれど。・・・でも、そうせざるをえなかった。

「・・・落ち着いたか?」
「う、ん。・・・ごめんね」
「良いって。・・・どうせ、俺の事だろ。気付いてやれなくて、悪かった」
「亮が謝る事ないよ。・・・私、亮に酷い事言っちゃったし」
「・・・あれ、嘘だよな?」
「勿論! 私が亮の事嫌いなわけないよ」

明るい笑顔を見せた美優に、安心したように微笑む。その確認が取れただけでも嬉しかった。大方あの女どもに、「宍戸くんと別れろ」とでも迫られたんだろう。・・・勝手な真似しやがって・・・。

「・・・あ、それでね、亮」
「んぁ?どうした?」
「その・・・今日ってバレンタインじゃない?だから・・・・・・」

そわそわと美優が視線を彷徨わせ、それから上目遣いでこちらを見る。・・・かっ、可愛い・・・!!

「・・・亮に、チョコ作ってきたの」
「・・・・・・ほんとか?」
「・・・・・・うん。さっきの子たちのせいで、粉々だけど」

そう言って差し出された、水色の包み。美優が手作りしてくれたらしかった。俺はそれを受け取り、じっと見つめる。美優は、不安げな顔で俯いていた。

「・・・食って良いか?」
「え?で、でも・・・・・・」
「いただきます」
「あ、」

袋から割れてしまっているチョコを取り出し、口に入れる。途端に、ふわりと甘さが広がった。割れてしまっても、美優が作ってくれた事に変わりは無いし、美味しいものは美味しい。

「美味ぇよ」

笑ってそう伝えると、美優が嬉しそうに表情をほころばせた。


いのの口


(あ、たぶんそれ・・・)(辛ぇっ!!?)(激辛チョコにしてみたのv)
――――――――――――
切なめな感じで宍戸夢でした!

2012/2/20 repiero (No,18)

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