||パンチング・プレゼント!


「おぉぉしぃぃたぁぁりぃぃぃぃぃ!!」
「おぉ、美優。どないし・・・」
「死ね!!」

スパァァァァン!!

無駄に広い氷帝学園の廊下に、今日もまた馬鹿でかい殴打音が響き渡った。通りすがる人々は少々ザワザワとしているが、別にこんなもの、氷帝学園では日常の事である。わざわざ何があったのかと見に来るほど興味を示すような人は一人もいない。
ちなみに現場では殴られた男が倒れ付しているわけだが、もはや悲鳴すら上がっていない。痛い、と喚く事もなければ、意味のわからない言葉を発する事もない。ましてや、反撃しようなどという意思は、当たり前だが全く見られなかった。
それも仕方ない。彼は気絶しているのだから。

「ふぅ、スッキリした」

殴った当人は笑顔。晴れやかな笑顔。それに若干怯えるような表情を見せる通行人が数名。だが関心は示さない。だってそんな事したら殴られそうだし。

「じゃ、またね忍足!」

そう言って走り去っていく彼女の笑顔とは対照的に、殴られた男の表情は、かなり悲惨な感じに歪んでいた。





「おーしーたーりー!」

明るい私の声に、ビクッ、と震える男が一名。そう、今朝殴られていた男である。
言ってしまえばあんなのは毎日ある事なので、忍足も慣れているはずなのだが、どうしてもあの拳を避ける事ができないようだった。避けたら避けたで怖いからかもしれない。

「何の用や・・・」
「あのさ、今日って、何の日か知ってる?」
「・・・今日?あぁ、バレンタインやなぁ」
「そう、そうなんだよ。そこで忍足に朗報だ!!」
「いやな予感しかせぇへんのやけど」
「なんとこの私からチミにチョッコレートをプレゼントしよう!」

どーん。
胸を張って、躊躇う事無く言ってやる。すると忍足はしばしぽかーんと私を見つめた後、それからふぅ、と息を吐いて、

「今日はエイプリルフールとちゃうで?」

と、至って落ち着いた様子で言った。

「おいこら馬鹿にしてんのかテメー」
「馬鹿に?そないな事あらへんで?」
「うーわー腹立つ忍足腹立つー。ってか本気で私がチョコやると思ってんの?」
「思ってへんけど」
「ハッキリ言うな、おい。でもまぁ、確かにチョコをやる気はないよ。忍足変態だし」
「俺がいつお前にセクハラしてんねん」
「してるよ。いつも」
「いつも!?初めて会った時以外美優に触った事あらへんで!?」
「いや、なんか存在がセクハラなんだよね」
「泣いてエエかな」

若干涙目のキモい忍足(って言ったらガチで泣きそうだけど、)を無視して、私はポケットからチョコレートの包みを取り出した。透明の、可愛らしい絵がプリントされたつつみだ。それを差し出し、忍足の鼻先でプラプラさせてみる。犬か。

「どや〜、手作りだぜ!」
「・・・見た目は普通やな」
「味も普通だ馬鹿野郎、やっぱお前にはチョコやらん!!」
「なんでや!?」
「だって忍足ムカつくし。きもいし。変態だし」
「いや、」
「ドMだし。伊達眼鏡だし。最低だし。私のおやつ取るし」
「ちょ、」
「バカだし。アホだし。間抜けだし。・・・あと、変態だし」
「2回言うたなお前」

ぐすん。とか言って忍足が涙ぐむ。

「うわっ、ガチで泣きそうだよ気持ち悪いな!!」

って言ったら忍足がうなだれた。私に背を向けてしゃがみこみ、重たい雰囲気でいじけている。それを小さじ一杯ほど哀れに思ったが、すぐに思い直した。こういう時に声をかけてやると、決まって変態的なセリフで返してくるんだ、コイツは。だから無視するに限る。

「・・・・・・」
「・・・ぐすっ」
「・・・・・・はぁ」

私は未だにいじけている忍足の姿を見つめて呆れたように溜息をつき、それから何の脈絡も無く、スパァァァァン!!、と忍足の頭を、チョコレートの包みで殴った。

「〜っ、!?」

頭を抑えて、忍足が振り向こうとする。しかしそれよりも早く、

「この、変態っ!!」

と言い捨てて、私はその場から全力で走り去った。忍足のすぐ傍に、チョコレートの包みを残したまま。
・・・それは私からのプレゼントだバカヤロー!!





「〜っ、美優、次会ったら今度こそ許さへん・・・!!」

殴られた箇所を押さえながら、怒りをあらわにして立ち上がる。ぷりぷりとした様子の俺に、同情するような視線を向けてくる人間が少々うっとおしい。どうせ俺は負け組みだよ。

「・・・ん?」

立ち上がったところで、足元に何かの包みを見つける。さっき美優が持っていた包みだ。俺はそれを拾い上げて、首を傾げる。まさか忘れていったと言う事はないだろう。うっかり投げてしまった、というのも無いと思う。
そもそも、彼女の言葉が本当であれば、これは俺にくれるはずの物なわけで。

「美優・・・?」

ぽつりと名前を呟いて、彼女が消えたのであろう方向を見つめる。しかし、そちらは静まり返っていて、少しの音も聞こえない。彼女はもういなくなってしまったようだった。


ング・ント!


(・・・粉々になってるんやけど)
――――――――――――
今までで一番変な話だったと自負しております。

2012/2/16 repiero (No,13)

[3/9]
[prev/next]

[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -