||安物の価値


「・・・アーン?なんだコレは」
「私からの気持ちです。無理に受け取れとは言いません」

にこり、と笑って、その女は生徒会室を出て行った。・・・生徒会副会長、林田美優。他の奴らと違って唯一俺になびかねぇ、不可解な女だ。俺は渡された包みをじっと見つめ、ふん、と小さく呟いてそれを机の上に放った。
そういえば今日はバレンタインデー、あいつがその為にわざわざ用意したのかと思うと少し笑みが漏れた。でも俺はあの包みをどうこうするつもりはない。勿論食べるつもりも、開けるつもりもだ。それ程あれは、俺にとってどうでも良いもの。

「どうせ安物だしな」

それともあいつの手作りか?何を作ったのかは知らねぇが、俺んとこのシェフの味に敵うはずはない。数は多いが、全員が全員、一流の腕をもっている。

(・・・・・・)

今日はまだ仕事が残っていたはず。確か簡単な書類仕事だから、俺が片付けてしまおう。そう思って、椅子に座り、包みを机の隅にどけて、書類を出した。さーっと目を通して、内容の確認をはじめる。でも。

(・・・なんでこんなに気になるんだ?)

視界の端にちらつく、あの包みが気になって仕方が無い。青系の色で柔かくまとめられているそれは、別段大きなわけでもない。机の隅に置いて仕事をすれば視界になど入らないはずなのに、なぜか目に入ってしまう。

(しまえば良いのか。そうすれば関係ねぇ)

す、とその袋を手に取り、引き出しの中へと入れる。これで心置きなく仕事に取り掛かれると、また書類に目を通し始める。今度はあの包みは視界には入ってこれない。
しかし、それなのに俺はまだあの包みの事が気になってしまって、一向に集中する事ができなかった。こんな事、初めてだ。

「クソッ・・・、」

机の引き出しから乱暴に包みを取り出し、するするとリボンを解いた。一度中身を確認してしまえば、これも収まるはず。そう思って。
袋を開き、中に入っているものを取り出す。・・・2つに折りたたまれたミニカードと、3つのミルクチョコレート。
俺はその内のひとつを手に取り、無造作に口に入れた。

「!」

途端、目を見開く。そのチョコレートが、今までに食べたどのチョコレートよりも美味しく感じられたから。俺から見れば安物のはずの、ただのチョコレートが。俺は驚きを隠せぬまま、そっとミニカードに手を伸ばした。
一体あいつは、このチョコレートと一緒にどんな言葉を俺に送ってきたのか。どうせ生徒会の仕事の事とか、部活の事とかだろう・・・。そう思ってカードを開いた俺は、そこに書いてあった言葉に愕然とした。

「っ・・・、樺地!!」
「・・・ウス」

す、とどこからともなく樺地が現れて、俺の方を見る。

「あいつの・・・美優のクラスはどこだ!」
「・・・3-D、です」

樺地の言葉を聞くか聞かないかの内に、生徒会室を出て走り出した。向かう場所は、決まってる。あのチョコレートとカードに込められた、アイツの思いに答えるために。


物の


("好きです。"、と。あのカードには、たった一言そう書かれていた)
――――――――――――
せっかくのベ様なのにありがちネタです。
次は侑士になります。

2012/2/12 repiero (No,11)

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