||ずれた女





俺が屋上で出会った女は、なんというか少し変わった奴だった。大抵の女は俺を見るなりうるさく叫ぶ。でもあいつは違った。じろじろとこちらを見てはいたものの、しばらくすると飽きたのかこちらに背を向けて空なんかを眺めているのである。
自惚れるようではあるが、空と自分、天秤にかけられて負けるとは思わなかった。

『まったくお前は・・・あんまりサボってばっかりだと俺も困るんだが』
『すいませーん。土井っちの授業なら良いかなって』
『コラ、どういう意味だ!』

この女には・・・確かそう、昨日も会った。会ったというよりは「見た」に近いが、職員室から数学の土井と一緒に出て来ていた。どうやら授業をサボったらしく、そのことで怒られているようだった。しかも話を聞く限り、けっこうな常習犯のようである。俺以外にそんな奴がいたとは。しかも女子で。

「・・・なぁ、」
「ん?」

声をかけてみると、女は身を捻ってこちらを見た。視線が絡む。その距離は20mほど。遠いといえば遠いその距離感で、俺と彼女はたしかに視線を交わし、言葉を交わしていた。
さて、本題だ。昨日サボっていたであろうことを指摘してみると、見事図星だったようで彼女は苦い顔をした。げんなり、という表現が一番しっくりくるであろうか。更に怒られていたということも言い当ててやると、彼女の眉間が若干ぴくりと震えた。恥ずかしいらしい。

「ところで」
「・・・今度はナンデスカ」

先程のやりとりのせいで、彼女は完全に警戒した様子である。

「お前さん、俺の事知らんのか?」
「はぁ?」

俺からしれみればわりと当然の疑問だったのだが、彼女にしてみればそうでもなかったようで、彼女の眉間に皺がよっていった。一応初対面だし、この言い方はまずかっただろうか。

「・・・、はじめまして、よね?」

一瞬、沈黙。

「・・・っく、あははははははっ!」

からの爆笑。彼女の機嫌は傍目からわかるほどに悪くなり、ものすごく会話をするのが嫌そうな顔でこちらを見てきている。本人は無自覚らしいところがまた面白い。

「俺は、仁王雅治じゃ。お前さんは?」
「・・・椎名芽衣」
「椎名か。ん、覚えたぜよ」

笑うと、彼女は少しだけ驚いたようにして僅かに笑った。と、チャイムが鳴る。芽衣はそれを機に帰っていき、ほとんど会話をする間もなくわかれることとなった。

「・・・椎名芽衣、か」

呟いて、ニヤリと笑みを深めた。

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