||ファースト


※この作品は、「いつか交わる平行線」の番外編です。できるだけ、本編を読まれた後での閲覧を推奨いたします。


「・・・ね、ほんとに行くの?」
「もちろんじゃき」

にこりと詐欺師らしからぬ笑みを見せた仁王に、私は少しだけ顔を赤くして俯いた。昼休みに2人で約束したことを、彼はどうやら本当に実行してしまうらしい。そりゃあ、私だって納得はしてるけど。でも、まさか今日からやるだなんて思わないじゃないか。

「いきなり私たちが一緒に帰ってたら、びっくりするだろうね」
「そりゃあな。まわりは血眼になってお前さんのこと探しとったはずじゃきぃ」
「・・・あぁ、そういえばあの子たち、クラスの人が先生に話したみたいで、校長室連れてかれてったよ」
「当然じゃ」

「あの子たち」とは、私のをいじめていた女の子たちのことだ。さすがに教室で堂々とやっていたんじゃ、見ていた人がいつまでも見過ごすわけはない。ちょうど私が仁王に連れて行かれていった後に、先生が報告を受けて教室に駆けつけてきたらしい。私も昼の授業を潰す勢いで事情聴取をされて、少しぐったりした気分だ。

「・・・ねぇ、あれ仁王君だよね。あの子ダレ?」
「ほんとだ。誰だろう・・・まさか彼女!?」
「えーっ、うそ、なんでー!!?」

2人揃って玄関を出ると、一気に周囲がざわつき始めた。仁王は慣れたもののようだが、私にしてみれば始めての体験。ファンに押しかけられた芸能人の気分とはこんな感じなのかと、周囲の迫力に気圧されながらもそんなことを考えた。

「芽衣」
「あ、え、なに?」
「手」
「あ・・・うん」

仁王も律儀なものだ。差し出された手に小さく微笑んで、そっとその手を取った。それにまた周囲が悲鳴のような黄色い声のようなそれを上げる。仁王は私を多少庇うようにしながらも、その中を押し進んで校門まで抜け出した。

「すっごい人だかり」
「今日は特にな」
「仁王も人気者だね」
「別にどうでもよか。俺はお前さんがおればええ」
「・・・さらっとすごいこと言わなかった?」
「プリッ」
「うぜぇ」

呆れと共に溜息が漏れた。

「そういえば、私らお互いの家も知らないじゃん」
「付き合ってどんくらいじゃっけ?1ヶ月はもう経ったじゃろ」
「そうだっけ?覚えてない」
「・・・寂しい脳みそじゃのぉ・・・・・・」
「ああ?どういう意味だそれ」
「プリッ」
「また!」

軽く仁王の方を睨みつけると、彼はくつくつと押し殺すように笑って、それから私の頭を撫でた。それだけでこみ上げてくる笑みを隠すように、小さく俯く。仁王はそれにまた笑って、私の身体を引き寄せた。

「・・・ね、にお」
「なんじゃ?」
「わたし、・・・・・・い」
「え?」
「〜〜っ、なんでもない!」

なんだか自分で言ったことが後から恥ずかしくなって、私は仁王の手を振り払うように少しだけ前の方を歩いた。「もう離れたくない」だなんて、感動の再会を果たした親子か恋人じゃないんだから。いや、自分たちも恋人ではあるが、でも私たちに、少なくとも私にはそんな照れくさい言葉は似合わない。

「・・・芽衣」
「なにっ!?」
「不安にならんでも、俺はもうお前さんのことを離せんよ」
「なっ・・・・・・」

余裕そうな、勝ち誇った笑み。私はそれにもうどうしようもなく腹が立ってきて、苦し紛れに仁王の身体をどんと突き放した。

「聞こえてたんなら、聞き返すなっ!!」
「ちょ、そんなに怒らんでもええじゃろ」
「もう知らない!」
「め、芽衣?」
「・・・・・・」
「すまんかったって」
「・・・・・・」
「芽衣ー?」

もう、何が何でも無視だ。別に本気で怒っているわけではないが、今回のはなんというか、私の数少ない乙女心を踏みにじられた気がする。それにあんなことを聞かれてしまった後で、普通に会話をするというのもうまくいかない気がした。

「芽衣、芽衣」
「・・・・・・」
「な、こっち向いて?」
「・・・っ、しつこ・・・、」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・あ、顔まっか」
「っ、な、な・・・!!」

勢い込んで振り返った瞬間、唇に触れた柔らかいもの。その感触が、夢とか気の迷いじゃなく、たしかに本物だとわかって、私は熱くなった頬を隠すのも忘れて後ずさった。仁王は可笑しそうに私を見て笑みを零す。ただ口をパクパクとさせることしかできない私を、仁王は優しく見つめていた。

「・・・っっ、仁王の馬鹿!!」

こんな時ばかりは、この長い黒髪をありがたいと思った。この真っ赤になった顔を、仁王に見られなくて済むから。仁王は小さく微笑んで、また私の頭をそっと撫でてくれた。


ァー


なにもかもが初めてで、でも、そんな初めてを当り前にできることが、なによりも幸せだった。
――――――――――――
平行線、番外編でした!

前々から要望はいただいていたのですが、なかなか実現に至らずorz
完結した後もアンケートでたくさんのご投票をいただき、嬉しい限りです。管理人は本当に幸せ者です。

さて、今回の番外編はお楽しみいただけましたでしょうか?
一応、最終話の放課後という形で書いてみました。
久しぶりに平行線の主人公を描いたので、ちょっとぶれてるかもしれません・・・w

今日ポッキーの日ですね
2012/11/11 (No,76) repiero

[27/28]
[prev/next]

[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -