||結末





彼に連れてこられたのは、屋上だった。屋上につくなり乱暴に扉が閉められ、そしてすぐにきつく抱き締められた。お互いに言葉はない。何もいう事ができなかった。そもそも彼に何を伝えれば良いのか、何から言えば良いのかもわからない。

「・・・・・・」

痛いほどの抱擁が、逆に怖かった。彼は怒っているのではないか、いや怒っていない筈などないが、なによりも嫌われてしまったのではないかと思った。ただこうして抱き締めてくれていることが、少なくとも嫌われていないことに対する唯一の証拠な気がする。私は垂れ下がった両手を恐る恐る背中へまわした。

ぴくりと、彼の身体が動く。私は顔を上げた。

「仁王・・・」
「なんで黙っとった」

私の声を遮るように、彼が口を開いた。落ち着いた、しかし低く怒りのこもった声音。引っ込んでいたはずの涙がまた溢れて、ぼろ、と頬を伝う。

「だっ、て・・・」

だって、だって。
言い訳をする幼い子供のように、ただただ繰り返す。
だって、仕方がないじゃないか。彼に言ったところで、迷惑をかけてしまうかもわからなかった。仮に彼が止めてくれたとしても、私が仁王の彼女であることは隠せなくなっていただろうと思う。そうしたら、またいじめになるかもしれない。今度は、別れなくてはならないかもしれない。会うことは勿論、メールも電話もできなくなっていたかもしれない。
・・・全部が、想像の中のことでしかないのはわかっている。けれど、私にはその可能性を否定することができなかった。

「・・・すまん。芽衣に、怒ってるわけじゃないんじゃ」
「でも・・・っ!」
「俺が許せんのは・・・、異変に気付いてたんに、芽衣を助けてあげられなかった自分自身じゃ」

鼓膜が震える。最後の一粒とばかりに涙が落ちた。仁王が確かに怒っているのがわかって、私は、何も言えずに口を噤むより他なかった。

「なぁ、芽衣。俺はおまんが好きじゃ」
「に、お・・・」
「俺と付き合うことで、芽衣が傷付けられるのを恐れとった。じゃからおまんの提案に乗って、わざわざ付き合っとることを隠しとった」
「・・・・・・」
「・・・でも、それじゃ何も変わらんな」

仁王は抱き締める力を緩め、私の身体を少し離した。私はまたこぼれそうになった涙を、顔をくしゃくしゃにして必死になって抑えた。変な顔してたんだと思う、仁王が笑ってたから。でもそんなの気にしてられなかった。仁王の言葉のひとつひとつが、私には酷く重たくて。

「もう、逃げるのはやめじゃ」

仁王が私を見つめる。あれだけ我慢していた涙が、その瞬間にぽろ、とこぼれた。

「もしおまんがまだ俺のことを好きなら・・・」
「・・・っ、」
「今日は、手ぇ繋いで堂々と一緒に帰ろ」
「そ、れは・・・」
「デートもしよ。朝から晩まで一緒にいて、俺がどうやっても芽衣を離さんことを周りに見せつけちゃる」

もう堪える事なんてできない大粒の涙が、いくつもいくつも地面に落ちた。仁王がそれをそっと拭う。それにもっと泣きそうになった。

「・・・に、おう」
「なんじゃ?」
「・・・・・・大好き」
「!」

このまま抱きついたら仁王の制服が汚れてしまうなとか、笑われてしまうかもとか思ったけれど、その程度の理性で我慢できるほど、今の私は利口ではなかった。嫌がらせされてる時も、いじめられてる時も、ずっとこうやって仁王に甘えたかった。口では気丈に振舞ってても、私だって不安になるし、いじめが怖いと思う。だから、無条件に彼に甘えてしまいたかった。
そんな私の心情をわかってか、仁王は笑うことも怒ることもせずに、ただ優しく私の頭を撫でてくれた。私はそんな仁王を思いながら、その涙が収まるまで、ずっと彼の身体を抱き締め続けていた。


END


(繋がれた手を思いながら、たくさんの視線の中を歩いた。)
(でも、それを怖いとはもう思わない。・・・隣に、君がいるから。)

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